国、事業者を厳しく批判 国会事故調 信頼回復へ改革迫る

国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(委員長=黒川清・元日本学術会議会長=国会事故調)は5日、報告書を取りまとめ(=写真)、衆参両院議長に提出した。福島事故の根本原因とその背景、改革への提言などを盛込み、今後、国会での議論を求めた。

報告書は事故の根源的原因として、歴代の規制当局と電気事業者との関係について、「規制する立場とされる立場の『逆転関係』が起き、規制当局は電気事業者の『虜(とりこ)』となっていた」と指摘する一方、事業者は「既設炉の稼働の維持」や「訴訟対応で求められる無謬性」(過去の正当性)を守るために、「何度も事前に対策を立てるチャンスがあったにもかかわらず、回避や先送りを行ってきた」と厳しく批判している。

また報告書は、今回の事故を「世界の原子力の歴史に残る大事故であり、科学技術先進国の1つである日本で起きたことに世界中の人々は驚愕した」とし、世界が注目する中、政府と東京電力の事故対応のありようは、「日本が抱えている根本的な問題を露呈することとなった」と断じた。

世界では過去に、米国スリーマイル島原発や旧ソ連チェルノブイリ原発での大事故が起こったにもかかわらず、日本では大事故など起こらないとの「安全神話」という「思い込み」が生まれ、ほぼ50年にわたる一党支配もあって、高度経済成長を遂げる中で、「自信は次第におごり、慢心に変わり始めた」と指摘した。

事業会社や規制官庁の「単線路線のエリート」たちにとって、「前例を踏襲すること、組織の利益を守ることは、重要な使命」となり、安全対策は先送りされることになったと説明。

昨年3・11に発生した巨大地震と津波によって引き起こされた「原子力災害への対応は、極めて困難なものだったことは疑いもない」と認めながらも、「この50年で初めてとなる歴史的な政権交代からわずか18か月の新政権下でこの事故を迎えた」ことから、政府、規制当局、事業者は「危機管理能力を問われ、日本のみならず、世界に大きな影響を与えるような被害の拡大を招いた」と断じている。

事故の直接的原因については、地震および地震に誘発された津波という自然現象であるとしながらも、「重要な点において解明されていないことが多い」と指摘し、事故の主因を津波による全電源喪失とした東京電力や政府がIAEAに提出した事故報告書に疑問を呈している。

その理由として、(1)スクラム(原子炉緊急停止)後に最大の揺れが到達した(2)小規模LOCA(小さな配管破断などの小破口冷却材喪失事故)の可能性を原子力安全基盤機構の解析結果で指摘(3)1号機の主蒸気逃がし安全弁(SR弁)が作動しなかった可能性を否定できない──などを挙げた。

約640ページに及ぶ報告書本文の中には、昨年3月14日夜、福島第一原発が最大の危機を迎え、福島第一からの「退避計画」を検討しているころ、当時の吉田昌郎所長は「女性や関係会社の人がまだ残っており、まずはそういった人たちを優先的に福島第一原発から帰ってもらうことを考えた」とした後、「ただし、最後の最後は、昔から知っている10人くらいは一緒に死んでくれるかな、ということは考えた」と述べたことが記録されており、現場が極めて緊迫した状況だったことが紹介されている。

提言では、(1)規制当局に対する国会の監視(2)政府の危機管理体制の見直し(3)被災住民に対する政府の対応(4)電気事業者の監視(5)新しい規制組織の要件(6)原子力法規制の見直し(7)独立調査委員会の活用──の7項目を挙げた。

[黒川国会事故調委員長の記者会見での発言]これらの提言を一歩一歩着実に実行し、不断の改革の努力を尽くすことこそ、国民から未来を託された国会議員、国会、国民1人ひとりの使命だと確信している。事故はまだ終わっていない。この提言の実現に向けた第一歩を踏み出すことこそ、この事故によって日本が失った世界からの信用を取り戻し、国家に対する国民の信頼を回復するための必要条件だと確信している。


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