候補地の選定段階完了 スイスの放射性廃棄物処分計画

原子力の利用を将来的に継続する・しないに関わらず、すでに存在する使用済み燃料や高レベル放射性廃棄物(HLW)の処分は原子力先進国に共通する重要課題だ。日本では放射性廃棄物の地層処分事業実施主体の原子力発電環境整備機構(NUMO)が2002年から候補地選定手続きを公募方式で開始したものの候補地はまだ現れていない。一方、福島事故後に段階的な脱原子力を決めたスイスでは、低・中レベル用を含めすでに6地点の候補地選定を終えるなど、プロセスの第2段階に駒を進めている。

このため、NUMOはこのほど、スイスで同様の事業を担当しているスイス放射性廃棄物管理協同組合(NAGRA)のT.アーンストCEOを招聘。同国における高レベル放射性廃棄物(HLW)地層処分サイト選定プロセスの現状を紹介する講演会を開催した。

アーンストCEOはまず、福島事故を契機にスイス連邦政府が打ち出した2034年までの段階的な原子力廃止を含む新たなエネルギー政策に言及した。同氏によると議会が承認した同政策は、原子炉の新設を完全に否定したわけではなく、「現在の技術より安全なもの」という条件下で開発への道は開かれていると明言。原子力のように重要な案件は、今後2〜3年以内に国民投票で再確認されるとの見通しを示した。また、同組合が進めている廃棄物管理事業の現状については、次のように説明している。

放射性廃棄物はすべて深地層処分

スイスの放射性廃棄物管理で他国と異なる点は、HLWのみならず低中レベル廃棄物も深地層に埋設する方針が法で定められている点。現在これらは、ビュレンリンゲン村のツビラーグ中間貯蔵施設で保管中だが、高レベル用深地層処分場(=図)は廃棄物の埋設スペースのほかに、代表的な廃棄物を少量ずつ保管して監視評価する試験処分設備や処分設備の運用インフラとなる地上設備が備えられる予定だ。

3段階のサイト選定手続き

処分の認可には日本と同様、長期間の手続きを要するが、スイスでは2006年までにNAGRAが処分に関する実験調査を行い、連邦政府がその内容を承認。08年には3段階で構成される立地選定プログラムを承認しており、分野別計画としてすでに第1段階目が昨年末までに完了した。

これは地質的に適切な場所を安全性と技術的な実現可能性を最優先に選定する段階で、国民への説明や広報活動は含まれない。2010年2月までに6地点が選定され、連邦原子力安全検査局(ENSI)が承認。更なる評価結果のパブコメなどを経て11年に連邦エネルギー局(SFOE)がすべての内容を政府に勧告したのに続き、同年11月に政府もこれらを承認している。

第2段階は候補地点を絞り込み

第2段階に入った現在では、候補地を高レベル用と低・中レベル用を各2か所に絞り込む予定。予備的な安全解析や工学的事前研究、社会経済的な影響評価も含めて4年ほどの期間を見込んでおり、この段階で初めて、スイス国民に処分場建設の可能性のあるエリアが地図上で示されることになる。

NAGRAとSFOEは建設計画の影響を受ける203の市町村に対し、これまでの研究結果を提示・説明するイベントをすでに15回実施。国民参加のための枠組として約100名のメンバーからなる「地域会議」を各地域で編成している。メンバーの内訳は当局者、および政党や商工会議所などの利害関係団体が各30〜50%ずつ、残りの10〜30%が一般市民という割合。具体的な課題については少人数のワーキング・グループで話し合う。

国民の理解を深める活動の一環としては、グリムゼルとモントテリの2つの地下研究所における実物大廃棄物容器の展示や、仮想エレベーターで深度600mのオパリナス粘土層の世界が体感できる設備などを使用。ここでは科学的正確さと娯楽性のバランスを取ることが重要であり、展示物見学後に生じる様々な疑問にスタッフが答えるという体制も整えている。

NAGRAの研究開発

NAGRAはキャニスターの設計にも取り組んでおり、他国より少量の銅をコーティングしたスチール素材やセラミクス製容器などを諸外国の廃棄物管理機関と共同研究中。それぞれの長所と短所を比較検討しているところだ。また、工学的バリアに関する重要な情報を得るため、2つの地下研究所で実物大キャニスターのヒーター実験やガス・シールのテストなどを実施中となっている。

認可手続きは第3段階になると、候補サイトも廃棄物ごとに各1か所に限定、一般許可の申請段階を迎える。15年の終わり頃から16年初頭にかけて、サイトの絞り込みについて連邦政府が評価し、最終決定。議会が承認した後は、国民投票をもって最終決定となる段取りである。


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