若手が将来を本音で議論 YGN 原子力若手討論会開催 異業種、同年代の意見交換「貴重」 前に向かって進む「勇気持つことできた」

技術先進国と言われる日本で起きた東京電力・福島原子力発電所事故──。原子力の見直しが行われているいま、若手原子力関係者は、原子力の将来をどのように考え、どのように担っていったらよいのか。日本原子力学会の「原子力青年ネットワーク連絡会」(YGN)が働きかけ原産協会が協力して、外部には非公開の中で真剣に議論した(=写真)。内容の一部を、YGN運営委員の後藤弘行氏(関西電力)に紹介してもらった。

原子力青年ネットワーク連絡会(YGN)は6月、東京都内で、「原子力若手討論会」を開催した。

「原子力若手討論会」は、日本国内の原子力に関連する企業や団体に所属する35歳以下の若手を対象とし、同世代で、組織や業種を超えて日本の原子力産業の将来について本音で議論することで、若手の啓発や同世代のネットワークを構築することを目的とした企画であり、電力会社、プラントメーカー、建設会社、研究機関、商社、官公庁等、33の企業や団体に所属する92名(討論会運営スタッフ14名を含む)が参加した。

討論会は、パネル討論とグループ討論で構成され、永田章人氏(東芝)の司会で進行した。討論会の開会では、YGNの代表である城隆久氏(日本原子力研究開発機構)が、「他人の敷いたレールをただ進むのではなく、これからの原子力について、それを担う私たち若手の1人ひとりが、自分自身の将来のこととして責任をもって考え、行動するべき」と述べ、「今回の討論会で同じ業界で働く若手同士の考えや思いを共有し、将来について考えるきっかけを得て欲しい」と、参加者へ呼びかけた。続くパネル討論は、YGN運営委員の代表5名により行われ、エネルギー政策、核燃料サイクル、安全性のさらなる向上、人材育成、地域共生、国際貢献をテーマに議論された。

パネリストの中里道氏(三菱重工業)は、「持続可能な社会、二度と戦争を起こさない社会の実現のために原子力を志してきた。福島第一原子力発電所の事故で自分自身もショックを受け、原子力業界として反省すべき点は多いが、その反省を踏まえたうえで、原子力の可能性を信じ、自己研鑽を続けていけると思っている」と述べた。城隆久氏(原子力機構)は、安全性の向上について、「安全性向上の取組みを阻害する社会的、組織的、心理的要因を特定し、改善を図る努力が必要であり、そのためには、規制側と事業者側が一体となった活動も必要ではないか」と主張した。地域共生について、後藤弘行(関西電力)は「第一に、原子力事業者のたゆまざる安全性の追求と、安全に関する丁寧、真摯な説明により、原子力事業者自身が信用されることが不可欠。そして、事業者の取組みがより効果的に行われ、また客観性を持つよう、規制や自治体も高い技術力を持ち、それらによる監視が効果的に行われる仕組みを構築することが重要と考える。長い年月が必要と思われるが、そのような姿を1つの目標として、今後、技術者として何を身につけ、何をすべきか、一緒に考えたい」と述べた。

また、西山潤氏(東京工業大学)は、総合的な原子力教育と基礎・基盤研究の拡充の両方の必要性を、堀尾健太氏(東京大学)は、福島第一原子力発電所事故の教訓を世界と共有し、また日本の持つ技術や経験に対する他国からの期待に応えることの責任や意義をそれぞれ主張した。

グループ討論では、参加者全員が約10名のグループに分かれ、日常の生活や業務を通じて各人が感じている問題点や疑問、その背景や解決策について議論した。討論会の参加者は、同じ原子力業界ではあるが、業種も専門性も異なる初対面同士であることを考慮し、活発な議論を促すため、YGN運営委員により、事前のアンケートに基づき関心分野の近い参加者でグループを構成したり、所属組織が偏らないようにしたりといった配慮がなされた。

また、所属組織や立場にとらわれない本音での議論を促すため、関係者以外の傍聴を禁止し、また、参加者が、本討論会で得た情報の発信元に関するいかなる情報についても秘匿するという義務を負う「チャタムハウスルール」を適用することなど、情報の取扱いには細心の注意が払われた。これらの配慮があったためか、それぞれのグループで活発な議論が繰り広げられた。

グループ討論での主な意見は次のとおり。

▽安全について、これまで事業者が規制に頼りすぎて自主的な取り組みを欠いていた、もしくは、規制に縛られて自主的な取り組みができなかった、という実態があったのではないか。

▽今後、事業者の自主的な安全性向上の取り組みが重要性を増すと思われるが、効果や客観性といった観点から、規制主体の技術力や監視体制も不可欠。

▽事業者の努力義務に委ねるべきポイントと、国や自治体の規制、監視の役割など、安全に対する責任を明確化すべきではないか。

▽原子力は、エネルギー政策の1つの選択肢であり、科学的な情報に基づき、どの技術にどの程度の投資をすべきか、という議論があるべき。

▽原子力に関する科学的な情報を発信しても、原子力の専門家というだけで信用されない。利害の薄い若手から発信することで受け入れられるのではないか。

▽一般公衆からの信頼獲得には、一方的な情報の発信ではなく、相手の不安や疑問に応じた双方向のコミュニケーションが重要。コミュニケーターとして、若手であることがメリットとなる場合もある。

▽マスメディアとの勉強会などを通じて、情報の発信者としてのマスメディアとの付き合い方を習得すべき。

▽立地地域からの信頼は、そこで働く技術者が、1人の人間として信用されているかどうかによるところが大きい。その意識をもって、自律、自己研鑚、誠実さなど、人間性を高めていくべき。

▽事業者側、規制側、両方の人材育成の重要性は言うまでもないが、学生や若い世代の“原子力離れ”が進むと予想される中でどうするか。原子力に対し夢や責任感を持っている今の若手世代が、より若い世代に対して動機づけできることがあるのではないか。

▽民主主義の仕組みの中で、国民が原子力に反対するのであれば原子力を続ける必要はない、という意見もあるが、誤った判断をしないように社会に働きかけることが、原子力やエネルギーの専門家の役割であり、若手もその担い手として振る舞うべき。

▽日本は、設計・製作技術、運転実績に加え、核不拡散分野での国際貢献もあり、今後、原子力の導入を希望している途上国から、大きな期待を寄せられている。これらの国際社会からの期待に応えることを、日本の技術者の使命として忘れてはならない。

▽技術力の維持・向上のためにも海外へ積極的に展開したい。原子力特有のリスクもあり、単独企業ではなくオールジャパンでの連携が必要。

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本討論会終了後に実施されたアンケートでは、本討論会に対する満足度に関する質問には、回答者の95%から「とても満足した」「まあまあ満足した」という回答があり、「やや不満が残る」「大いに不満が残る」との回答はゼロであった。

また、本討論会の継続開催に対しては、回答者の全員が、「是非とも開催すべき」「形を変えて開催すべき」と回答している。それらの主な理由は、「普段、このような異業種との交流、それも原子力について本音で話せる機会がないため、有意義であった」、「同年代の方の意見や様々な考え方に触れることができ、大変よい刺激を受けた」というものであった。また、「今後の業務もさらに積極的に取り組んでいけるモチベーションとなった」、「当事者意識を持って立ち向かうべきだと感じた」、「若い私たちでも何かしていけるのではないか、と勇気を持つことができた」など、討論会を通じてモチベーションを得たという意見があった。

その一方で、「じっくり時間をかけて、もっと踏み込んだ議論がしたい」「福島第一原子力発電所事故の反省や今後の地域再生について、もっと的を絞って話がしたい」「若手としての今後のアクションプランも含めて議論したい」といった要望もみられた。YGNでは、今回の討論会が若手の啓発や交流に効果のあったものとして、継続的な開催を検討する。


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