[新刊抄] 「とことん語る 福島事故と原子力の明日」 学生とシニアの対話会 著

日本が原子力平和利用の研究開発に着手してから、半世紀。この間、世界では民生用で米国TMI事故、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故が起き、昨年3月には我が国でも福島第一原子力発電所事故が発生した。

日本では50年の歴史の中で、原子力はさまざまな風雪にさらされながらも、福島事故が発生するまでは、大局的に見てほぼ順調な軌跡をたどってきたと言える。この思いは、この書をまとめた原子力界のOB達「学生とシニアの対話会」(宅間正夫会長)のメンバーも、同じだろう。

彼らが現役を退いた後、世界的な原子力発電への期待が高まる“原子力ルネッサンス”の潮流が強まり、原子力先進国となった日本がいかに期待に応えていけるか、原子力技術の発展と継承が最大の課題と捉えられたのは当然のなりゆきだ。05年から始めた面と向かって行った学生との対話は11年末までに66回、延べ3000人の参加者を超えたという。

これとは別に行ってきたメールによる「爺と孫との問答集」の往復書簡の2年間の成果を出版しようとした矢先に、3・11事故が発生。

学生達と意見交換を原点に戻ってやり直し、率直な問いかけに答えようとしたものが本書となった。多くの市民の疑問にも答えたいと考え、広く出版することにした。福島事故後、「いま一度、我が国が原子力技術を有することの意義を、これからの市民民主主義社会を担う市民の皆さんと共に考えていきたい」(宅間会長)としている。

学生代表らも、「真の意味での原子力安全を確保するにはどうすればよいのか」と問いかけ、核燃料サイクルを含めた原子力発電全体を客観的に見つめ直す過程で、「シニアから主体的に意思決定する姿勢を学んだ」という。

▽東電福島原発事故の根本原因は原子力推進体制にあるのでは?▽原子力発電を持つ電気事業者は民間企業でいいのか?▽世界への貢献という視点で、日本が果たすべき役割は?▽ウラン濃縮、再処理技術を非核保有国の中で、日本が例外的に認められている事情はどういうことか?──などの問いに、執筆者グループ毎に回答している。

新書版355ページ、定価1050円、日本電気協会新聞部刊。(き)


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