英国政府が電力市場改革法案 新設計画への投資促進見込む

英国エネルギー気候変動省(DECC)のE.ディビー大臣は11月29日、電力の安定供給を維持しつつ原子力発電等の利用による低炭素経済への移行を目指した電力市場改革(EMR)法案を国会での審議に回したと発表した。低炭素電源による電力を固定価格で差金決済するなど、不確定要素を減ずることによって、原子力の新設計画を含む英国のエネルギー・プロジェクトに多くの投資家を惹き付けるのが主な目的。女王の裁可を経て来年中に発効すれば、2014年にも同法案に盛り込まれた多くの施策が本格的に実行に移されることになる。

英国の電力供給体制は現在、送電部門を除く発電および小売部門が全面的に自由化された垂直統合型。これら両部門の事業者は、2008年に英国内のほとんどの原子力発電施設を手中に収めたEDFエナジー社を含む大手電力6社に統合され、市場シェアの9割以上を占有している。

こうしたなかで、国内の既存の発電設備は今後10年間に5分の1が閉鎖時期を迎える一方、電力需要は輸送部門を中心に増加していく見通し。2020年までに発送電部門で1100億ポンドの投資が必要と見られているが、現在の電力市場体制で必要とするだけの規模とペースで投資を呼び込むことは難しいと政府は考えている。

また、EU指令を受けて、同じ時期までに温室効果ガスの排出量を34%削減するという低炭素移行計画を09年に発表したことから、政府は2011年7月、原子力や再生可能エネルギー、二酸化炭素の回収・貯蔵(CCS)が可能な火力といった電源の開発支援を目的としたEMRに着手していた。

EMRによって、英国は変動しやすい化石燃料価格に左右されることなく、投資家が安心して資本調達可能な環境を提供できると断言。以下の施策をEMR法案に盛り込んだとしている。

(1)「差金決済取引(CfDs)」を伴う固定価格買い取り制度の導入=消費者の電気料金を値上げせずに低炭素電源プロジェクトで投資家の利益を安定させ、開発事業者に大規模な先行投資確保を支援するのがねらい。長期契約の固定価格買い取り制度により、低炭素電源からの発電電力は権利行使価格と市場参照価格の差額が補完される。

(2)「容量市場制度」の導入=ピーク時においても停電が避けられるよう、予め設定した発電容量を市場取引で調達する。

(3)国内の送電会社とガス導管網会社の持ち株会社であるナショナル・グリッド社が容量市場と差金決済取引を管理する。

なお、EMR法案の成立により、英国原子力規制庁(ONR)は保健安全執行部の支援の下、法的に独立の立場の機関として正式に発足する。

[英国の「年次エネルギー声明」]

ディビーDECC大臣は同じ日、国会に対する現政権の合意事項をとりまとめた年次エネルギー声明を公表した。エネルギーと温暖化防止に関する政策で政府が過去1年間に実施してきた施策の進展状況を包括的に説明する内容となっている。

原子力に関しては、新設計画においてEDFエナジー社の子会社であるNNBジェネレーション社がヒンクリーポイントで進めている計画が最も進んでいるとしたほか、日立の買収したホライズン社がウィルファとオールドベリーの2サイトでそれぞれ2〜3基の原子炉を建設する計画の実施を確認したと明記。ニュージェン社もセラフィールドでの新設計画について、サイト特性調査を開始したとしている。

同相は、このような進展は電力市場改革での提案が信頼性の高いものであることを実証していると断言。公的な補助金なしで新たな原発を建設するための枠組と相まって、投資家を惹き付けているとの評価を示した。

仏国でエネルギー法案策定に向けた全国民的議論を開始

仏国でも環境省が11月26日、F.オランド政権が公約した「2025年までに原子力の発電シェアを50%に削減」を実行に移すため、エネルギー源の移行に関する国民評議会の第1回会合を正式に開催した。

関連する労働組合や環境NGO、消費者団体、商工会議所、関連自治体および議員らを交え、2025年までのエネルギー構成要素の在り方やエネルギー源の移行に要する資金調達等について、月1回のペースで国民的議論を実施。D.バトー環境相のほかにアレバ社のA.ローベルジョン前CEOを含めた7名による委員会がこれを運営し、来年にも仏国の新たなエネルギー法案を議会に提出する方針だ。


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