【展望】2011.3.11事故から2年 政権交代機に冷静な判断願う 原子力技術、失っていいのか2011.3.11の東京電力福島第一原子力発電所事故後、2回目の正月が明け、まもなく2年の歳月が経とうとしている。この事故を受け、日本はいま、原子力利用のあり方と安全性確保の両面で、大きな選択を迫られている。それは日本人の自覚を超えて、世界の人々の関心をも集めている。 前民主党政権は1年前の11年12月に「事故そのものは収束に至った」と判断し、事故収束宣言を行った。昨年9月には、事故後のエネルギー供給の基本的考え方を10か月かけて検討し、「革新的エネルギー・環境戦略」として、「30年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」という政策方針を閣議決定した。 一方で、未曾有の福島事故を防ぐことができなかった経験から、民主、自民、公明3党による与野党の調整の結果、議員立法として原子力規制委員会設置法が難産の末に成立し、やっと昨年9月に同委員会は発足にこぎつけた。この間、日本の原子力発電所は次々と定期検査入りで停止し、昨年5月には全50基すべてが停止するという歴史的にもない厳しい状態に陥った。その後、旧原子力安全・保安院と旧原子力安全委員会が安全性を確認した関西電力の大飯発電所3、4号機の2基のみを、野田佳彦首相を含む関係4閣僚が協議の末、地元福井県の理解を得た上で、再稼働することがかろうじてできるに至った。 事故後、最初の1年間は事故そのものの対応・収束と避難住民の受け入れ、生活支援に全力を尽くし、次の1年間は、賠償、除染、事故原因の当面の解明、今後のエネルギー政策の再構築に力が注がれたと言えるだろう。 このように民主党政権は、全力を尽くして事故対応や地元復旧に意を尽くしたと思うが、多くの課題も積み残されている。 今後の日本のエネルギー政策を、どのようにして決めていくのか。完全に市場に委ねていいか。民主党が行った“国民的議論”は本当に国民的議論だったのか。民主党の政治主導による革新的エネルギー・環境戦略策定の影響によって、新原子力政策大綱(旧原子力長期計画)の取りまとめも断念せざるを得なくなり、原子力委員会自身のあり方も議論されるに至った。同委員会の経緯と果たしてきた役割、原子力を取り巻く現状と今後の見直しの方向性を議論したものの、必要な機能と体制の選択肢を示したものにとどまった。日本はまた、地球温暖化防止などの地球規模の環境政策をどこまで本気で取り組むのか。 そして、新たに誕生した原子力規制委員会は、原子力安全の深層に着実に足を踏み入れ、国民や地域住民の信頼をいかに取り戻すことができるだろうか。 2030年までに電力の半分を原子力発電でまかなうことを盛り込んだ現行のエネルギー基本計画を、福島事故前に決定したのも当の民主党政権であり、「30年代に原発稼働ゼロ」方針を閣議決定したのは、未曾有の福島原発事故を受けてのものだ。起こりえない事故が起き、その深刻な事実を国および国民全体で引き受けた上で、今後のエネルギー選択をどうするかが問われている。 そして迎えたのが、今回の自民・公明両党の圧倒的多数による政権交代だ。混乱と自信喪失の中での早急な判断は、いかにしても避けるべきというのが、国政を司る政権党としての賢明な判断だろう。政権交代を機に新しい自公連立政権は、現実路線を歩もうとしているのは幸いだ。 世界的な経済大国であり、技術立国を標榜する日本での深刻な事故は、国民にとっても、世界の人々にとってもたいへんな衝撃をもって受け止められた。 それでも、これまでの日本の発展を支えてきたエネルギーの安定供給や環境保全、貿易収支への貢献などに果たしてきた原子力の役割や、今後迎えるであろう世界の状況、人口増、エネルギー・食糧・水資源確保の必要性、地球温暖化対策などを考えるに、原子力技術をここで日本が手放してもいいものだろうか。それは、これから原子力を導入しようとしている国々が望んでいることだろうか。 日本が50年以上前に、戦後の混乱期から抜け出し、原子力研究開発に乗り出した黎明期に、被爆国でありながら関係者が抱いた希望、それは無資源国の日本が、他国に頼らずエネルギー確保が可能な準国産エネルギーとしての原子力開発だった。その後、非核兵器国では唯一、ウラン濃縮、再処理、高速増殖炉を含む燃料サイクル確立への道を切り開くために、国を挙げての対米、対仏、対国際原子力機関(IAEA)などとの苦労を重ねた交渉の結果であることを忘れないでほしい。 甚大な原子力事故は二度と起こしてはならない。これはだれも共通の思いだ。過酷な事故を経験した人たちには、心と体を癒す十分な時間が必要でもある。 それでも、諦めずに原子力の安全性を高め、原子力技術を維持し、科学技術の進歩を信じ、原子力への信頼を取り戻すために、最後はそれを支える人間への信頼を、取り戻すことができるかどうか、原子力を再生できるかどうか。この数年が歴史的分水嶺となる。 お問い合わせは、情報・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで |