服部理事長記者会見 規制も産業界との対話を 現実的エネ政策求める

原産協会の服部拓也理事長は昨年末、2012年を振り返り、自公連立政権への期待や原子力規制委員会が策定をめざす新安全基準などをめぐって、プレスブリーフィングを行い、記者からの質問にも答えた。以下、冒頭発言と主な質疑応答。

「新政権に期待する――国民の信頼回復を」=発言概要

衆議院総選挙の結果を受けて、12月17日付けでメッセージを発信した。サブタイトルに記載した「国民の信頼回復を」ということが一番重要だと考えている。福島第一発電所事故により、国民の信頼が根底から損なわれた。その後、9月の革新的エネルギー・環境戦略の策定には一部混乱があったと考えている。つまるところ、「政府、規制当局、事業者、専門家、立地地域および国民の間の相互信頼関係が構築されていなかった」ことが問題であった。そこで、新しい政権においては、信頼回復を最重要課題として取り組むことを期待したいとした。

まずは、福島の復興と再生に全力で取り組むことが大事である。課題も多く容易ではないが、政治の強いリーダーシップの下で、省庁の枠を超えた取り組みが求められている。

次に、「現実的なエネルギー政策・原子力政策を長期的かつグローバルな視点から再構築」するということを期待したいとした。今の革新的エネルギー・環境戦略では、将来の夢を語っている部分が多いと考える。研究開発において夢を語るのは良いが、エネルギーの安定供給は国民の生活や産業と密接に関係しており夢であってはならず、現実を見ないといけないのではないか。今回の選挙結果は、国民の声をある程度反映していると考える。

産業界としては、「原子力の安全確保は一義的責任が事業者にある」ということから、原子力の安全性向上と透明性の確保が重要だろうと考える。そのことに継続的に取り組んでいく。

質疑応答

Q1 日立のホライズン社買収や、リトアニアのビサギナス計画など、原発輸出の出資リスクについて。

A1 日立が自らの経営判断に基づいて行ったこと。産業界としても今後に期待したい。経産省も歓迎するというコメントを出した。

出資リスクについては、発電電力をどれだけのコストで市場に提供できるのかによるのではないか。物を造るという点においては、日立はABWRを建設した十分な経験がある。日本では、電力・メーカー・ゼネコンが一体となってプロジェクトを進めるというビジネスモデルである。また品質レベルが高く信頼性の高いサプライチェーンがある。英国はかつて原子力を作った経験があるが、サイズウエル以降新規建設がなかったため、国内のサプライチェーンがどこまで再構築できるのかが課題だと考える。規制の枠組み等はすでにあるため、問題はないだろう。

Q2 英国に限らず出資を求められることが増えていることについてどう考えるか。

A2 英国のような先進国においても、原子力新興国においても、出資を求められるケースが多い。例えば、リトアニアにおいては2割ぐらいの出資を求められたと聞いている。今後海外進出にあたって、国からの支援がどこまで得られるかが課題。これまでの日本におけるビジネスモデルとは異なる。

Q3 自民党は、原子力の再稼働について、3年以内に評価するとしているがどう考えるか?新政権へ期待されることは?

A3 再稼働問題については、新しくできた規制委員会が新しい基準を作り、それに合格をしたものが再稼働をするとなっている。タイミングの問題については、原子力産業界としてはもう少し早くならないかと考えるが、規制委員会に従うしかない。

ただし、新しい基準というものが科学的、合理的なものであって、その基準や根拠を分かりやすく国民に示す責務があると考える。この基準が、世界標準から乖離(かいり)したものではないことを期待したい。規制委員会がしっかりと責務を果たしていると国民が判断すれば、この判断基準に合格したものは、再稼働に納得いただけるのではないか。

規制委員会は、独立していることは重要だが、孤立してはいけないと常々言われている。これは、国際アドバイザリー会議でも有識者が、「産業界と意見交換(ダイアログ)なくしては良い規制はできない」、「規制が原子力の技術的能力を持たなければならない」、「透明性を持って取り組む」の三点を指摘していた。私は、原子力の信頼性の出発点は、規制が信頼されることであるとこれまでも述べてきた。

一方、現状のスケジュールでは、夏場の再稼働に間に合わないのではないかと考える。しかし、規制委員会は政治から独立しているところであり、外圧を加えるのは、規制委員会や国民のためにも良くない。

自民党が主張しているエネルギー政策に3年かけるという話は、再稼働の問題だけでなく、原子力のあり方について、今の2030年代にゼロというスローガン的なものではなく、現実を踏まえた政策を言っていると私は理解している。

Q4 破砕帯の評価の仕方についての見解は?

A4 活断層については、「科学的、合理的な判断」、「産業界との対話」、「透明性や説明責任」を果たしていくことで、国民の理解が得られるのではないか。現在は、公開の場で、地盤の専門家で話合われているが、中身が分かりにくく、もう少し理解し易くして欲しいと思っている。地盤についての議論はサイエンスの分野の議論で、「ないことを証明せよ」という問いは原子力発電所の設計のようなエンジニアリングの世界では正直難しい。サイエンスとエンジニアリングの折り合いをどうつけるか、難しい問題だが、答えを見つけて行かなければならない。

エンジニアリングの世界ではどこかで線引きして、切り捨てたところに残るリスクに、どう対応するかという議論だ。いずれにせよ、結果だけでなく、どういうプロセスを経ているのかを示す必要がある。

Q5 規制について、世界標準が大事ということであるが、各国事情が異なり安全基準もさまざまであると考える。安全基準はミニマム・リクワイアメントだと規制委員会の田中委員長は言っている。日本として、産業界として、原子力の安全の担保をどういうものを目指していくのか?

A5 まず、世界標準について、IAEAのセーフティ・スタンダードなどはガイドラインであり強制力はなく、安全基準は各国の責任に任されている。

12月の原子力安全推進協会(JANSI)の会議で「エクセレンスを目指す」と言う議論があり、不断の改善が必要だ。その会議で、「ハウ・セイフ・イズ・セイフ・イナフ?」という質問があり、それには答えが無いという結論になった。もしそこに答えがあったとしたら、安全について現状に満足せずにより高いレベルを目指すという考えが止まってしまう。答えが無いということが大事だということ。

その会議の結論としては、安全性については不断の追及をしていくことが大事で、一番大事な要素はセーフティー・カルチャーだとなった。しかし、セーフティー・カルチャーというものが、概念的なもので終ってしまっては困るため、現場というものを忘れてはならないという指摘もあった。

Q6 規制委員会が、新しい安全基準を7月に設定した時に、すぐに起動できるのか?安全対策を取るために2、3年と時間がかかるのか?

A6 一つ気になっている点は、シビア・アクシデントも含め世界一厳しい基準とするという言い方をされていることだ。これは、ミニマム・リクワイアメントという話と違うのではないか。安全というものは、思想の一貫性を持つべきで、世界の基準を並べて良いところだけをつまみ食い的なものでは良くないと考える。

もう一点は、緊急度によって優先順位をつけるべきである。それが、安全に対しての考え方がしっかりしているということの証しである。ただ厳しければ良いというものではなく、そこには優先順位があるはずだ。一律に全てのものを満足しないといけないということは、あまりに乱暴な話であって、規制側の技術能力のなさを示しているようなものだ。

当然のことながら、現場のパフォーマンスなども踏まえ、対応するべきだと考える。例えば、規制の要求を全部ハードで対策する考え方と、ハード・プラス・ソフトで対策を取り、一定期間の猶予を経て、ハードが追いつくという対策でも良いと考える。

また「規制は、もっと産業界と対話すべきだ」と海外の方も言っており、規制のための規制では良くないと指摘している。そこが一番大事な部分だと考える。もし、以上の考え方を取り入れるとすれば、何年もかからないのではないかと考える。

Q7 来年の国際的な原子力利用に関する見通しに対する見解は?今後の原子力利用は?

A7 エネルギーあるいは電力については、競争力という問題がある。例えば、米国でシェールガスが大量に生産されることになると、地球温暖化の観点は除き、短期的な状況では原子力の競争力が厳しくなる。そうなると米国内での原子力の建設が進まなくなる。また、既設プラントについても、価格競争力がないということになると、停止に追い込まれる可能性もある。

他には、仏国が進めているフラマンビルやフィンランドのオルキルオトのEPR建設が遅れているように、先進国における原子力開発が思うように進んでいない。これは投資家からすると原子力のリスクが高いということになる。1日も早く成功事例を作り、投資家の信頼を勝ち取る必要がある。世界で新規建設が進んでいるのは、ロシア、インド、中国および韓国で、そこが牽引力となっている。また、ベトナム、トルコ、リトアニアやチェコ等の計画が今後どうなるかにもかかっている。

これは、ひとえに世界経済全体がどうなるかに左右される。しかし20年、30年という長いスパンで考えると、原子力はコスト競争力があると考える。現在の建設計画は、(福島での事故により)2、3年後ろ倒しとなっている。これがさらに後ろへ行かないようにすべきであり、日本が歩みを進めることが大事だと考える。世界がどうこうというより、日本がどうするかを考えるべきで、結局のところ、事業者と規制がどこまで変わったかを、国民に見せられるかどうかである。


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