米原子力規制委員会 マグウッド委員インタビュー 「教訓を学び、前へ進め」福島事故を受け、ドイツやイタリアをはじめとして原子力から撤退または縮小する国がある一方で、米国の原子力政策は変わることなく現状を堅持している。米国では、非在来型のシェールガスなど他のエネルギー資源の経済的優位性が増したことで凍結された新規原子力プロジェクトもあるが、福島事故によって米国の方向が変わったということはない。 原子力産業新聞ではこのほど来日した米国原子力規制委員会(NRC)のW.D.マグウッド委員から話を聞いた。 (聞き手 石井敬之) −日本で原子力規制委員会(NRA)が発足したが、NRCとして日本に協力、アドバイスできることは何か? 米国と日本は長年にわたって、原子力分野で相互に実りある協力関係を築いてきた。NRCとNRAの関係もそのようになると思うし、密接に協力していきたいと考えている。双方に学び合えることも多いだろう。NRAは現在、新しい規格や基準を作るのに忙しいと思うが、日米両国には共通の課題もあり、より一層協力するいい機会になると考えている。 もちろん米国の規制と日本の規制は同一ではないが、基本となるアプローチや考え方は似ている面が多い。協力することは双方にメリットが生まれる。実はすでにNRCとNRAの間では、どのように交流や情報交換をするかという具体的な話が進んでいるところだ。 −米国で福島事故のようなシビア・アクシデントが起きた場合のNRCの役割や危機管理体制は? NRCは、国内全ての原子力発電所で緊急時対応の演習を実施するよう義務付けている。フルスケールと呼ばれる大規模な演習も、2年毎に実施している。 仮に事故が発生した場合、オンサイトでの対応は一義的に原子力発電事業者の責任になる。それに対しオフサイトでの対応は、一義的に州知事の責任になり、州知事が住民避難等の意思決定をする。 NRCの主な役割は技術アドバイザーを務めることだ。NRCの常駐検査官がサイトに常駐しており、事故が起きた場合、常駐検査官が窓口となり、NRC本部に状況を伝える。NRC本部でも現地の状況を十分に把握することができ、適切なアドバイスをし、必要な連携をとれる。 具体的には、事業者が州知事に「避難命令を出したほうがいい」といった勧告を出し、知事はそれがNRCの勧告の下に出されているということを確認した上で、命令を下すというわけだ。 あくまでもこうしたアドバイスがNRCの基本姿勢である。 −書類ではなく現場重視の安全規制であることの重要性は? 1979年の米国TMI事故の教訓を受け、NRCは各サイトに常駐検査官を置く制度を導入した。TMI事故では、事故が現場で進展している状況の中、NRCが入手できる情報の質が低かった。現場にスタッフがいれば伝わってくる情報の質も向上し、NRCによる状況把握もより正確になっただろう。 常駐検査官は平時であれば、プラントのパフォーマンスを監視・評価するというのが役割で、緊急時にはより幅広く対応することになる。もちろん日本がまったく違った制度であることは認識しているが、今回の福島事故の場合も、現地に常駐検査官がいれば、おそらく情報の質に関する問題は今回ほど深刻にならなかったのではないかという気がしている。NRAがどのような制度を検討しているかはわからないが、米国の制度を参考にするとよいのではないか。 −NRCは米国の原子力産業界(INPOや原子力事業者)と良好な関係を保っていると聞いている。それに対し日本では、NRAは原子力産業界から距離を置こうとしているような気がしている。 米国でのNRCと原子力産業界との関係の作り方だが、基本方針は透明でオープンであるということ。NRCは誰に対しても、オープンという立場をとっている。 NRCスタッフと事業者との間でミーティングがあれば、基本的にオープンで行い、ウェブキャスト等で公開するといったことを実施しているので、それが一般市民からの信頼を得るということにつながっている。何が起こっているのか、何の話をしているのかということを知ることができるという信頼感である。 日本のNRAは新しい組織であるし、日程が厳しい中でいろいろなことをやらなければならない。どのような形で産業界との関係を持つのが適切かということは徐々に見えてくると思うが、一般論として規制当局はオープンで、かつ透明性のある関係を持つことによるメリットは非常に大きい。そうすることで不要なミスを避けるということができると思う。今後活動していくに従って、そういったプロトコル的な付き合い方が定まってくると思う。 −米エネルギー協会(NEI)は昨年10月、「原子力輸出管理」(原産協会会員専用ウェブに和訳全文を掲載)と題する報告書を取りまとめた。その中でNEIは「NRCやエネルギー省、国務省、商務省による現行の規制は、大変な手間と時間がかかり時代遅れ」と指摘している。英国への原子力輸出など今後大きな展開が見込まれるが、規制を見直す余地はないか? 物事を効率化する余地は常にあると思う。どの国でも政府というものは官僚主義的なアプローチが行き過ぎるということもあるが、原子力に関する技術の移転は慎重にきっちりと管理されている。それには理由があり、移転後の技術が平和利用に限定される形で、どのように使われるかということが非常に重要であるからだ。 だからといって効率化が絶対にできないという意味ではない。おそらく関係当局はNEIの報告も読み、効率化する余地はないか検討するだろう。 −米国の使用済み燃料処分への取り組み状況は? 放射性廃棄物の問題は、原子力発電所を運営するにあたって最も難しい問題だ。米国ではネバダ州ユッカマウンテンを最終処分場にする計画を何十年もかけて進めてきたが、オバマ政権はユッカマウンテンでの立地は難しいと判断し、現在ではユッカマウンテン計画は撤回されている。 これについては政府のブルーリボン委員会が報告書をまとめており(米国内原子力発電所から発生する使用済み燃料や高レベル廃棄物の管理処分方策を2年にわたって審議。昨年1月に報告書を取りまとめた)、新たな選定プロセスで新たな処分場を立地するとの方針が示された。新しい処分場が決まるまでは、使用済み燃料を乾式貯蔵することになった。 現在は各発電所のサイト内で、かなりの量の使用済み燃料が乾式貯蔵されているが、ブルーリボン委員会の勧告では、「集中した中間貯蔵施設を国内に立地する」とされている。しかしまだ具体的なプランがあるわけではない。 −再処理のオプションは? 各国が使用済み燃料の再処理を構想し、核燃料サイクルの実現に努力していることは認識しているが、米国としては経済性が見出せない。特に米国は他国と状況が異なり、他のエネルギー資源も豊富にあることから、現時点で再処理を実施する妥当性はない。仮に米国の産業界から再処理を実施したいとの申請があれば、NRCとしても検討はするが、今のところ産業界にそのような動きはない。 −日本の原子力産業界にメッセージを。 米国でTMI以降に起こったことを考えると、やはり我々は厳しい教訓を学び、厳しい選択を強いられた。大きな事故があったときには、常にすべての関係者が厳しく反省し、よりよく自分を変えていくことが必要である。日本の産業界も米国の産業界が1979年を機に行ってきたと同じような厳しい教訓を学び、厳しい選択をし、自らを改革していくことが必要だと思う。 私のメッセージはシンプルで、「教訓を学ぶということ。その上で前へ進むということ」だ。 お問い合わせは、情報・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで |