〈笠木伸英・東大名誉教授/JST上席フェロー 科学者と社会、理解共有を〉

福島事故では、法的にも道義的にも事故対策責任者と科学者の関係は曖昧で、科学者の合意された声が形成されなかった。国際社会への説明も不十分となり、日本の信頼を損なう懸念があった。科学者は、国民およびその代表である政府に対して科学的助言を適時に示す責務を担うことが求められていると再認識された。

今後科学者は、自らの役割と責任について検証を進め、社会と理解を共有していくべきである。政治行政やメディアと相互の役割を尊重し合い、科学顧問制度や公的シンクタンクなどを整備し国際的に通用する運用を行うなど、緊急時も平時も国民の科学に対する信頼に応えて責務を十分果たすことができる仕組みを形成する必要がある。

また緊急時にリスクとベネフィットについての科学的情報を提供し、災害進展時の専門知識を事故対策へ活用できるようリスクコミュニケーション体制の整備が必要で、適切な助言を準備する専門家のネットワーク構築などが求められる。

エネルギー政策の評価は極めて多面的だが、安定供給性、環境性、経済性などは科学的観点からある程度定量的に評価でき、意見の差異は指標のどこに重点を置くかによって生じる。個々の指標については日頃から議論し不確かさを小さくし、エネルギー計画時には、意見の相違と技術的な評価の分類をきちんと行った上で策定していくことが重要だ。

科学的根拠と政策的判断の分離と定量化を行うには、選定の根拠や議論の論理性を明示し、選定者の論理的判断を促して意見の相違点を明確化することである。

合意形成には、まず目標技術の指標別に科学者集団が客観的な評価をきちんと進め、それに対して政策決定者や市民などの選定者が重み付けを行う。これらをふまえ優先順位の根拠を示すことができ、どこに意見の相違があるか見えてくる。科学と社会の健全な信頼関係は、国民に開かれた所定の枠組みの下で永く経験を重ねて鍛錬され、初めて成立する。


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