〈ハットン卿 英国原子力産業協会会長 政策継続性が信頼築く〉

英国では、低炭素電源でエネルギーの未来を担保する原子力発電計画を継続する方針だ。一時期は原子力産業が衰退していくと懸念する人々が多かったが、近年になって楽観的見通しを持てる状況へと大きな進歩を遂げた。

原子力エネルギーの開発に成功するためには、(1)政治的支援(2)コミットメント(3)パブリック・アクセプタンス(4)投資家の信頼性(5)安定し堅牢な安全性と運転文化――が必須である。

ブレア政権前の約10年間、原子力の将来といえば負の遺産である廃止措置や老朽化したプラントの管理が主であったが、ブレア政権下での2006年エネルギー白書がこの流れを変えた。2008年以降には当初の計画では予期していなかった経済危機や投資環境、投資家のバランスシートの悪化が起こり、2011年は福島発電所事故が起こったが、結果的に英国の原子力計画継続の方針は変わらなかった。

英国で原子力が再び脚光を浴びたのは、エネルギー安全保障や輸入エネルギー依存のリスク、今後10〜20年で原子力や石炭火力の発電所が閉鎖されること、CO排出量を削減する必要性に関する国際的な合意があったことが要因となっている。

原子力・エネルギー政策については政策の継続性があってこそ、投資家の信頼も得られる。政治は企業が活発に原子力産業で活動できるためのインセンティブを提供することが重要であり、計画や承認の手続きを速やかにすること、廃止措置や放射線管理の財源確保、低炭素技術の導入促進などを進めるべきである。

市民からの支持も大切である。政府は2006年〜08年、様々な公開討論や展示会、プロのファシリテーターによる踏み込んだ議論など徹底的に市民との協議を実施した。こうした取組には費用も時間もかかったが、原子力に対する世論の支持を得ることができた。市民の安全性や経済性に関する懸念については、きちんと聞き入れて説明していく継続的な努力が必要である。

原子力の支持率は、福島事故の直後には悪化したが、その後復活し、事故以前より高い値になった。福島事故後に支持率が上がった要因としては規制当局の果たした役割が大きく、特に、M.ウェイトマン博士が、J.ベディントン主席科学顧問と事実を説明し、英国原子力業界の安全水準の高さを示したことである。

原子力はクリーンなエネルギーとして、これまで以上に大きな役割を果たすことが期待されており、何十年と培ってきた原子力の知識を持つ日本にも貢献をしていただきたい。


お問い合わせは、情報・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで