〈L.ボリショフ、ロシア科学アカデミー原子力安全研究所所長〉

チェルノブイリ事故後、ロシアも過酷事故に対する姿勢が変わった。まず、科学ベースのアプローチを行い、深層防護のモデルを活用。安全文化も以前と比べて重視されており、過酷事故に関する研究や反応度事故、配管破断等、様々な国際的な研究にも加わった。

事故後の除染と修復作業にも関わったが、除染は上手くいかなかった所も多い。例えば、川底に穴を掘って放射性物質が集まるような措置も講じたが、逆効果だった部分が大きい。住民へのヨウ素剤配布はコスト効果が高かった一方、現地の食材の摂取制限と管理は後になってあまり効果がなかったという結果が出ている。住民の隔離避難も行ったが、広さ15万平方キロメートルという地域の300万人を対象にした避難の指示は混乱を招いた。

また、1969年から30年間に発電部門の事故によりOECD加盟国と非加盟国の合計で8万人が亡くなっているが、このうち原子力による犠牲者は31人と桁がまったく違う。福島でも放射線による死亡者は出ていないにも拘わらず、一般のイメージが違う理由としては、公衆を過剰な被ばくから保護するという適切な安全目標が立てられていないこと、公衆の理解不足やリテラシーの低さが挙げられる。年間1ミリSvを超えない限り健康への影響はないとされており、コスト効果を考えると100ミリSv以下の場合はむしろ対策を打たない方が良い。

結論として、事故の実際の影響と規制の間にある百倍の溝を埋める必要性を指摘したい。情報公開をきちんと行い、事故時の緊急時対応については様々な国立技術支援センターが支援する必要がある。原子力を活用したいと思うのなら公衆の啓蒙活動は責務の一環であり、規制当局や事業者だけでなく、政府の活動として実施しなくてはならないだろう。


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