〈パネル討論 住民の心理面など議論 「納得できる基準理想」〉

◇放射線安全上の基準について

トーマス氏 低線量域の放射線影響をデータで科学的に立証するのは現実には不可能で、何が安全かを考える場合は、恐怖感などの心理面を含め社会的にリスクと便益を考えて基準を作る必要がある。事故の後、決められた日本の1ミリSvというのは厳しい基準で、かえって住民の帰還に際して心理面で負担になるという問題が心配される。

山名議長 1ミリSvの基準を、大熊町の住民はどう受け止めているか。

渡辺氏 はじめは教育施設について1ミリSvという話だったのが、そのうちにそれを超えるような状況で帰還できるのかという考え方が住民のなかに生じた。現実的に、帰れる基準とか生活する基準について住民が納得できるような基準があるのが理想だ。

◇復興の進め方について

伊藤氏 自治体ごと段階に応じ対応することが必要だ。当面の計画と中長期の計画(ビジョン)の対応の2つにわけ、地域全体のところは自治体と相談しつつ、一元化した福島の出先を中心に、きちんと進めていく。

モスカレンコ氏 企業誘致など経済発展の促進で、賃金上昇など経済の好循環ができると、産業も活発になり家族の生活も良くなる。チェルノブイリ事故では、心理面や生活困窮で亡くなった方が多く、住民の精神的なリハビリなど通じ、活気のある生活環境をどう作るかが重要だ。

渡辺氏 2年たつと現実的な対応に迫られ、帰りたくても帰れないという住民の思いもある。町外コミュニティを作るなどして帰還まで町民の生活と健康を守るという原点に立ち返って取り組んでいるところだ。

住民の多様なニーズにも対応しつつ中長期な計画作りをして将来の姿を住民に示せるようにしたいと思っている。

◇除染について

モスカレンコ氏 地域をきちんと線量測定するなど、地域の状況をきちんと分析し、現状と今何が課題なのかを住民にきちんと伝えていくことが重要だった。

渡辺氏 除染に関わるのはほとんど住民で、最初悲観的な面もあったが今は前向きな思いで取り組む状況もでてきた。高線量地域をモデル地域にして除染をしてもらい、環境回復が可能という期待をもてるとよい。復興計画の具体化とあわせ住民が展望をもてるよう取り組んでいく。

◇住民の心理面への対応

トーマス氏 チェルノブイリ事故後、家に帰れないとかコミュニティの崩壊などのさまざまなストレスがあった。ウクライナの経験に十分学ぶことが重要だ。リスクをどう受け入れるかという問題も学術的な研究を進める必要がある。健康診断は、やりすぎても住民の心理面での負担が大きくなるという心配があり、リスクとの向き合い方の問題が大切だ。

渡辺氏 多くを失う一方、国の内外から多くの支援を頂いた。廃炉や中間貯蔵の事業に加え、より前向きな事業を起こすべきという若い世代からの声に力を得て、今後を見据えて取り組んでいきたい。


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