シリーズ 英国Q&A (4)英国の原子力損害賠償法(前半)

英国の原子力損害賠償制度の現状は?

英国の原子力損害賠償に関連した法律は、「1965年原子力施設法」(改正後)に規定されています。同法はパリ条約とブラッセル補足条約に基づき、英国で制定されたものです。

現在英国は、2004年パリ条約改定議定書(「改正パリ条約」)と2004年ブラッセル補足条約・追加議定書で要求された項目を遵守すべく、「1965年原子力施設法」の見直しを実施しています。欧州連合加盟国であるその他締約国は、2004年に、改正パリ条約とブラッセル補足条約・追加議定書を一斉に採択していますが、多くの国々にとって批准には自国の原子力損害賠償法の改正が必要とされています。

英国法は未だ、改正パリ条約とブラッセル補足条約・追加議定書を批准できるよう改正されていませんが、政府は「1965年原子力施設法」の改正案を公開審議に付しています。

英国の原子力損害賠償関連法の主な特徴は?

「1965年原子力施設法」はパリ条約に規定された責任の基本原則を盛り込んでおり、現在、以下の原子力賠償制度が含まれます。

▽賠償責任の集中=原子力サイトの被許可者(原子力施設運転者がこれにあたる)は、原子力損害に対し単独ですべての責任を持つ。

▽賠償責任の除外=賠償責任は、(1)他の契約当事者が責任を負う旨の書面による合意がある(2)個人によって意図的または不作為に引き起こされた損害(3)国内武力紛争を含む紛争中の敵対行為から発生した損害――の場合、除外されることもあるが、自然災害に起因する損害は、たとえ合理的に予測不可能で特殊な自然災害であっても除外されない。

▽責任限度額=責任限度額は1億4000万ポンドで、英政府は総額3億SDRまでの賠償請求に応じるだけの資金を確保しなければならない。(SDR(特別引出権)とは国際通貨基金が創設した国際準備資産のこと。)

▽金融担保=被許可者は賠償責任に応じた額の金融担保または保険を確保しなければならない。

▽損害賠償請求権の期限=原子力事故から30年以内に法的措置をとらない場合、損害賠償請求権は消滅する。

▽差別の禁止=パリ条約は、国籍、本籍地または居住地によるいかなる差別もなく適用されねばならない。

▽裁判管轄権=英国内での損害賠償請求に関する裁判管轄権は、英国が加盟する関連国際条約によって決定される。(後半に続く)

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回答者 ジョージ・ボロヴァス(ピルズベリー・ウィンスロップ・ショー・ピットマン外国法事務弁護士事務所・パートナー、国際原子力プロジェクト長)、ヘレン・クック(同シニア・アソシエイツ、原子力部門所属)

  (構成 石井敬之)

(本Q&Aは一般的な情報提供を目的としたものであり、同弁護士事務所の法的意見や法律面での助言として提供しているものではありません)


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