UNSCEARが報告書案を承認 福島で「住民の健康に影響ない」国連の原子放射線影響に関する科学委員会(UNSCEAR)は年次会合最終日の5月31日、「福島事故による被ばくが住民の健康に直ちに影響を与えることはなく、一般市民や作業員の大多数が将来、何らかの健康影響を被ることも考えにくい」と結論づける報告書案を承認した。今年後半に開かれる国連総会に提出される予定だが、国際放射線防護委員会(ICRP)勧告に技術的なベースを提供する立場のUNSCEARが、純粋に科学的所見から同事故による健康影響の小ささを保証したことから、日本の今後の放射線規制にも何らかの影響があると予想されている。 福島事故後の住民と環境に対する放射線影響の問題は27日に開幕していたUNSCEAR会合の主要議題の1つ。今回の報告書案は国際的に著名な科学者80余名が同事故から得られた情報を分析してまとめたもので、総会ではUNSCEARの加盟27か国の代表がこれを精査した。委員会としての勧告を盛り込んだ上で正式に公表されれば、これまでに同事故から得られたデータの国際的な科学分析では最も包括的な報告書になるとしている。 結論部で同報告書は「全体的に見て、日本国民が受けた被ばく線量は低いか、あるいは非常に低く、以後も健康影響の出るリスクは相応に低いと言っていい」と明言。事故直後の避難指示など、住民を守るために取られた措置が線量を10分の1まで下げるのに大いに役だったとしており、そうでなかった場合は事故後数十年間にがん発症率の上昇といった健康影響が表れる可能性があったと指摘した。 報告書によると、福島ではヨウ素131による被ばくは事故後数週間以内に限定され、甲状腺の吸収線量が数十mグレイ程度だった一方、セシウム134と137による全身線量は10mSvほど。福島からの放射能放出により大部分の日本人が最初の1年間とそれ以降に受ける追加の被ばく量は自然放射線レベルである年間2.1mSvより低いとしている。 同報告書はまた、事故サイトに関わった東電社員と下請け業者を含む作業員約2万5000名のなかに放射線による急性障害を受けた者や死者がいなかった点を強調。「高線量の被ばく者が少数であることを考えると、被ばくを原因とする甲状腺がんの発生が増加するとは考えにくい」としており、100mSvを超える作業員には個人レベルで潜在的な晩発性影響をモニターするため、甲状腺のほかに胃、大腸、肺の経過を毎年観察するなどの特別健康診断が実施されることになるとした。 同報告書はさらに、「事故直後数か月間の被ばく線量は動植物に影響を及ぼすレベルを上回ったものの、いずれの影響も皆、一時的だった」と断言。汚染水が海に放出されたエリアの水生植物は潜在的な例外としつつ、線量は概して水生および陸生の生物相に急性影響が現れないレベルに低かったと説明している。 お問い合わせは、情報・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで |