経済に継続的なマイナス影響 電中研が展望 2030年のエネ需給 原子力の長期停止、GDP累積86兆円損失と試算

電力中央研究所はこのほど、「2030年までの産業構造・エネルギー需給展望」の報告書をまとめた。エネルギー政策が不透明のなか、今後のエネルギー政策の見直し議論のため、マクロ経済・産業・エネルギー需給の将来像が求められていることを踏まえて今回の展望をまとめたもの。

ゆるやかな経済成長が続く標準ケースや、原子力の再稼働が進まずゼロで推移するケースなど複数のケースをモデル計算した。

再稼働が見込めないまま原子力ゼロで推移するケースではGDPが継続的にマイナス影響を受け、2030年までに累積的に86兆円の損失になると試算した。燃料輸入の増加などが響く。家庭用の電気料金も上昇し、モデル家計(300kWh/月)では、約600円/月の負担増となると見通した。国全体として見て就業者数も2030年時点で合計23万人減少し、特にサービス業で多くの雇用が失われる結果になった。

原子力ゼロケースは事実上ゼロに近い、現在のモラトリアム状態が延長される場合に近似しており、経済全体への一定規模の悪影響が継続的に生じることが避けられない。またCO排出量が2030年度に対1990年比で10%以上増加する計算で、環境面での悪化も見逃せない。

この計算にはCO排出増抑制のための環境対策コストが考慮されていないので、原子力ゼロを代替するコスト負担は実質的にはさらにふくらむことが見込まれる。

また報告書は標準ケースとして、世界経済の堅調な成長と燃料価格の持続的な上昇のなかで原子力の発電電力量が2030年時点で2010年の半分という前提で試算している。このケースでは1%程度の実質GDP成長とともに総電力需要が年率0.4%で増加を続けると見込んだ。電力化が一定程度進行すると分析、原子力発電の再稼働が一定程度実現してもなお、代替する化石燃料増が環境負荷を増やし、CO排出量が1990年比で約4%増になるとした。

為替変動やエネルギー政策の不明確な現状で先行き不透明とはいえ、原子力のような大規模電源の長期停止、代替する化石燃料の大量調達というゆがんだ構造から生じる悪影響を避けることはできそうもない。


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