海外インタビュー 英国の新規原子力プロジェクト キーマンに訊く

(構成 石井敬之)※インタビュー対象者の肩書きは、本年3月時点のものです。

[エネルギー・気候変動省 T.ストーン シニアアドバイザー]

 英国の近年の原子力発電開発戦略は?
 我々は英国の原子力産業をリスタートさせるために長い年月を費やしてきた。2006年時点では、我々は20年間原子力に関してほとんど何もやっておらず、規制体系は老朽化し、労働力も高年齢化し、スキルも衰えた。だが英国が必要とする原子力発電の規模は大きく、2020年代中ばから2030年代中ばをにらんで原子力の産業化を図らねばならない。
 2008年にエネルギー白書を公表した時点で、かなりの作業量をこなしていた。だがまだいくつかのピースがかけている。すなわち電力市場の大規模改革だ。
 原子力産業界はすでに多大なコミットメントをしている。例えばEDFエナジーはすでに10億ポンドを投資している。これは産業界と政府との信頼感の現れである。この信頼感が日本のみなさんにも今や目に見えているのではないか。

 原子力に関して英国では超党派の支持があったということか?
 英国の特筆すべき点は、政治面での原子力への支持があるということだ。すべての政党が原子力について経済に貢献するとの認識で一致している。これは電力だけの話ではなく、エネルギー全体の話だ。これにより英国は長期的に経済競争力を持つことになる。

 それが、日立製作所のホライズン買収のように投資家の関心を集めた理由か?
 政府はホライズンのプロジェクトを全面的に支援している。前オーナーであるRWEとEonは、我々と緊密に連携しており、我々は日立にも同じことを求めた。日立には常に戦略的な理解がありクリアーで商業的なフォーカスがある。加えて日立は我々がやることを理解し信頼し、我々に多大な安心感を与えている。
 原子力発電プロジェクトには建設コストと利息が伴う。利息の最大誘引となるのは、リスクに対する懸念だ。政府がやることに対しては投資家から高い信頼が得られ、リスクは下がり、利息も下がり、電力価格も下がる。日立は最大級のコミットメントを約束してくれた。これが他の日本企業にとっても良好事例となり、我々を信頼してくれると光栄だ。

 使用済み燃料の処分問題が課題としてあるが、GDF(地層処分施設)の立地の行方はどうか?
 カンブリアの事例では、アラデールとコープランドの両地域は賛成してくれた。つまりカンブリアには強い世論の支持がある。カンブリア・カウンティ議会は反対決議をしたが、選挙が近いことを考慮すると、差し引いて考えるべきだ。GDF選定プロセスは間違いなく軌道に乗っていると言って良い。政府が強いコミットメントを引き続き地元住民に示すことで、前へ進むだろう。

 そのほか新設プロジェクトにとっての課題は何か?
 最大の課題は長期にわたるファイナンスだ。日立が日本で実施しているように予算通りスケジュール通りにプロジェクトを実施することで、英国の原子力マーケットに信頼が生まれ、資金も流入してくるだろう。
 第二に、我々が現在実施している「原子力産業のリスタート」は、長い旅路の初期段階に過ぎないということだ。英国は2050年までに原子力だけでも7000万kWの発電設備容量が必要だ。現在はスタート地点に過ぎず、今後さらに立地サイトを増やし、必要とされるレベルにまでサプライチェーンを高め、電力市場改革を完遂し、世論の支持を維持・拡大していくことが大切だ。
 世論の支持を失えば、原子力の新設はない。今後10〜15年のことだが、もしも新しい実現可能なテクノロジーが出てきた場合、非常に興味深いことになるだろう。米国が熱心な小型モジュール型炉は、現在の大規模設備容量を必要としている英国には相応しくないが、中期的に見れば可能性が出てくる。
 第2次大戦中にロンドンは爆撃に悩まされたが、ロンドンの明かりが消えたことはない。400もの発電所があったからだ。電力システムをさらに前へ進めるためには、政府の決定、産業界の選択、競争力を持った英国経済、これが欠かせない。

 日本の原子力産業界にも機会はあるか?
 ここで強調しておきたいことは、英国はビジネスにとって最適な場であるということだ。英国はテクノロジーを歓迎し、スキルを歓迎し、投資を歓迎する。海外企業であろうと英国で雇用を創出するならば大歓迎だ。英国は日本企業や日本の投資家からのサポートを必要としている。東京の英国大使館にはエネルギー省の人間も駐在しており、いつでも日本企業の力になれる。日立が英国で成功を納め、それにより日本経済が好転し、日本の原子力産業界が活気にあふれることを願っている。 ■


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