日本原子力研究開発機構 福島復興に向けた取組み

福島第一原子力発電所の事故では、放射能汚染の問題が生活を脅かす事態になり、放射線に対する国民の関心が高まった。一方で、放射線利用技術の長年の蓄積をベースに、福島の事故収束や環境回復に貢献する取り組みが進められている。日本原子力研究開発機構(原子力機構)では、セシウムを吸着する新材料の開発やセシウムを多く吸収する植物の品種改良研究、さらに事故収束に使う作業用ロボットの部品に必要な耐放射線性評価など、これまでの技術を総動員し福島復興に役割を果たそうとしている。今号でその主な事例を紹介する。(記事中の写真・図表は原子力機構提供)

[放射線利用の技術を活かして セシウム捕集の新素材 学校等のプール除染に 方法を確立し「手引き」]

事故の直後から急いで取り組んだのが、学校や幼稚園など教育施設のプールの除染だった。放射性物質が広範囲にわたって拡散したことで、福島県下の学校のプールの水を除染する手立てを明確にすることが求められていた。除染の効果はもちろん、放射能の計測、排水・廃棄物などの処理方法などを安全に作業できる方法が必要で、原子力機構の研究者が地元の人たちと協力して取り組んだ。

必要な技術を開発し、どんなプールの状況にも使えて、特殊な知識や技術がない人でもできる一般的な方法で、特別な材料でなくともできることが条件となる。このためプール水にゼオライト粉末を投入して放射性物質を吸着させた後に、凝集剤を入れて凝集・沈殿させるという一般的な除染の方法をベースに工程を組んだ。

事故直後ということもあって明確な基準の設定がなされないなかで、厚生労働省が飲料水に対する暫定規制である放射性セシウム濃度200ベクレル/リットル、水素イオン濃度で5.8から8.6という排水基準を定める省令の値をクリア、排水にあたり下流の農業団体などとの相談に奔走した。県下の小学校や幼稚園のプールで実証試験を8回実施し、手引きによって十分に安全な作業で、規制値をクリアする除染が行えることを確認したうえで、国として手引きを公表するに至った。(2011年9月)

ただ、凝集剤を使った浄化は、使用後の凝集剤が放射性廃棄物として多量に残るうえ、物理的なろ過で取り切れない極微量の濃度で溶存するセシウムが残る問題があった。そこで原子力機構は、これまで研究してきた放射線を利用したグラフト重合材を応用し、主に放射線セシウムを吸着する材料によるプール水の浄化システムの開発にも取り組んでいる。

これまでに実際に福島県下の幼稚園で浄化試験を実施、性能を確認、沈殿物をのぞく11トンの水の浄化試験の結果、捕集材を充填したカラムにプール水を通すことで、放射性セシウムの濃度を排水の基準(200ベクレル/リットル)を下回る113ベクレルまで低減できることを確認している。

放射線利用技術による福島復興への貢献
(高崎研究所で実施中のもの)
□環境中の放射性物質の除去に関する研究開発
○放射性セシウム捕集材の開発
○放射性セシウムの植物による吸収の可視化と環境修復に役立つ植物の開発
□各種材料の放射線照射効果に関する研究開発
○各種材料・機器・部品の耐放射線性評価
○使用済みセシウム吸着装置中のゼオライト廃棄物からの水素発生試験
□各種材料の放射線照射効果に関する研究開発
○環境中の放射性セシウム同位体の簡便な弁別定量法の開発
○放射性物質による汚染地域の迅速な線量分布解析法の開発


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