日本への期待大きい アラジ・原子力委員会副委員長 ヨルダン初号機検討進む国際原子力機関(IAEA)、原子力国際協力センター、若狭湾エネルギー研究所による日本でのメンタリングコースに参加したカマール J.アラジ・ヨルダン原子力委員会(JAEC)副委員長(=写真)に19日、ヨルダンの原子力政策について話を聞いた。 (中村真紀子記者) Q.2012年5月にヨルダン下院は、原子力発電プログラムを中断することを決定した。どのように再開されるのか。 A.法律の規定から言っても、原子力発電計画停止の決定権限は内閣にあり、下院にはない。下院は助言や予算審議の機能しかない。またあの後、下院は変わった。よってヨルダンの原子力発電プログラムは現在も内閣による最終決定に備え、継続して重要事項の決定に必要な検討を行なっているというのが正確な把握である。候補地の実行可能性調査(FS)、サイト調査、環境影響調査も進めた。内閣が承認した候補サイトは、マジュダル、アカバ、ムワッカの3つである。3か所ともに建てるのではなく、ベンダーや投資者と相談してそのうちの特性が最適な1か所のみに立地する。 Q.2012年には初号機導入をアレバ・三菱の日仏合弁企業アトメア(ATMEA)社とアトムストロイエクスポルト(ASE)社の2つに絞ったと発表したが、どちらもコストが高いため、小型モジュール炉(SMR)にして最初から入札をやり直しという報道もある。今月下旬にも、日本から岸田外相がヨルダンを訪れて日本の原子力技術の高さと福島事故後の安全への取組について説明する予定と報じられている。 A.まずSMRとの報道は誤解だ。もちろん2025年以降ならSMR実用化の可能性はあるが、2020から22年に初号炉運転開始の目標は変わっておらず、今も2社を対象に検討を続けている。ヨルダンの首相は、戦略的パートナーシップの確立を求め、日本、フランス、ロシアの首相に書簡を出した。ヨルダンはこのパートナーシップをベースに、ベンダー、投資家が一体となった、操業、資金調達の包括パッケージ化契約を望んでいる。さらには、トルコに4基、ヨルダンに2基、また周辺の国に同じ炉型が何基か入るならば、共通する基盤整備への投資の合理化により、相互の利点がさらに高まることも考えられる。これがわが首相の考えだ。湾岸諸国からの投資も期待できる。 ヨルダンは、日本のプロジェクト管理力や技術蓄積を評価しており、日本は契約獲得の大きな可能性を持っている。アーキテクトエンジニアリング能力が重要なので、日本にも是非リーダーシップを発揮してほしい。ヨルダンでは、自国の運転員による運転開始目標時期をいつとするのか、そのためにはどういう育成計画が必要かについても、先進国の助言に基づき真剣に検討している。この分野でも日本からの提案に大きな期待を持っている。国内の諸事情もあると聞くが、関西電力や、日本原子力発電には、ヨルダンのプロジェクトに運転者や投資者としても参加してほしいと願っている。岸田外相とはヨルダンで会見することになろう。 Q.ヨルダンはウラン産出国であり、濃縮などのビジネス可能性も将来的にはあり得る。どのように考えているか。 A.核燃料サイクルをヨルダン国内で運営していくのは当面のところ考えていない。地域で15基から20基くらいの原子炉ないと採算がとれない。うまく原子力発電利用が進み、サウジアラビアで16基、UAEで8基、ヨルダンで4基となればこの基数を超えるので、濃縮施設と燃料加工施設をヨルダン国内にもつ前提は満たされることにはなる。その場合でも、高価な遠心分離法ではなく、レーザー濃縮技術が経済性をもつ30年間以上先の将来の話としてであろう。施設の運営についても、ヨルダン一国ではなく、サウジアラビアやエジプト、アラブ首長国連邦(UAE)等と多国間プロジェクトにすることが現実的だ。雇用創出にもつながる。透明性確保のために、IAEAの査察も受け入れるし、外国資本参加も考えられる。米国とヨルダンの協定において、濃縮権の放棄が問題となっているが、これはNPTを国家主権よりも優先し過ぎている気がする。ヨルダンは核兵器をもつ意図などはまったくない。IAEAの3Sの方針を遵守する条件を満たせばよいのではないか。 日本の場合は、核燃料サイクル施設を全部持とうとしているが、これは明らかに経済性の問題ではない。一方小国が、経済性もなくこういう施設を持つならば、地域のニーズを満たすビジネスとして成り立つ必要がある。先に述べたように、ヨルダンではこれは30年先といった長期的オプションの話になる。その場合でもIAEAの査察下で、地域のセキュリティのために、安全性を確保する等の前提が当然付く。 Q.ヨルダンの原子力発電導入計画は、アラブに共通する計画としてまとまった取り組みで考え、資源等の有効活用を図ることはできないのか? A.UAE、サウジアラビア、エジプト等が原子力発電導入を進めているが、ナショナル・プライドで進めている国、地域の協調を考えられる国等の事情も異なり、現状ではそういう方向ですぐに動くことはむずかしいが、長期的にはそういう協力は当然考えられる。地域全体をカバーする技術支援機関(TSO)はサウジアラビアやエジプトの人材を集めてヨルダンに設置することも考えられる。また運転や保守の支援の専門家人的資源の地域での共有も大きなメリットになる。ヨルダンも一部の活動に参加している湾岸協力会議(GCC)では、すでに原子力発電導入準備の活動に予算をつけている。 Q.今回の研修コースに参加し、日本の原子力施設等を見学された。今後世界の原子力市場をめざしていく日本に対して助言をいただきたい。 A.日本は3つのメーカーがPWRもBWRもそれも高度なさまざまの炉型を提供しているが、そのことのメリット・デメリットをよく考えるべきだ。日本として、世界市場に受け入れられるように炉型や技術の絞込みあるいは企業の垣根を超えた真剣な協力が必要と思われる。また新規導入国に対しては、技術単体での販売ではなく、原子力発電についての機関間協力(規制、研究、電力)、資金調達、人材育成(含運転員養成)、ベンダーからの支援等を包括するパッケージとして提供することが求められている。 さらに日本の技術レベルから考えると、各国ともっと密なコミュニケーションスキルが求められている。福島事故についての情報発信でも、事故直後からもっと懇切に説明し、不安を取り除いてほしかった。 お問い合わせは、政策・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで |