【原子力ワンポイント】 日本の放射線・放射能基準−−福島第一原発事故〈番外編25〉 屋内ラドン濃度が日本より数倍高い国も

国連科学委員会(UNSCEAR)2008年報告によると、「大気中の天然放射性物質の吸入による年間の被ばく線量」は日本よりも世界平均の方が約2.6倍も高くなっています。その理由を探ってみました。

ゲンくん 前回の原子力ワンポイント(番外編24)で、日本人は、天然の放射性物質(主にポロニウム210)が含まれた魚を多く食べるため、食品から受ける年間の被ばく線量が、世界平均の約3.4倍も高いことがわかったよ。その後もう一度じっくり、年間被ばく線量の比較表を見ていたら、「大気中の天然の放射性物質の吸入による年間の被ばく線量」は逆に、世界平均の方が約2.6倍(世界平均:1.26ミリシーベルト(mSv)、日本:0.48mSv)も高いことにも気づいたんだ。どういうこと?

カワさん よく気がつきましたね。実はRn222という元素が関係しているのです。このRn222は、ウラン(U238)が放射性壊変(放射線を出して次々と別の元素に変わっていく現象)して作られたラジウム(Ra226)から生成される希ガスの一種です。この様子を示す図が「ウラン壊変系列」です。なお、ウランとラジウムは、自然界では土壌や岩石中に存在しますが、金属状の原子ですから存在箇所を移動することは殆どありません。ラドンは、自然放射線の分野では、Rn222を「親核種」と呼び、その後ろに出てくる4つの元素「ポロニウム(Po218)、鉛(Pb214)、ビスマス(Bi214)、ポロニウム(Po214)」を「娘核種」と言い、合わせてラドンと呼ぶ習慣があります。親核種のRn222は希ガスですので地中の空隙を通過し、大気中に飛び出し、最後には私たちの住む家の中に入り込みます。この移動の先々で「娘核種」を生み出しますので、私たちが呼吸をすると、この親と娘が同時に体内に入ってきます。いずれもα線またはβ線を出しますので人は内部被ばくを生じます。注意すべき点は、(1)親のRn222は希ガスで吸気後、大部分が、呼気によって体外に放出されますが、(2)娘核種は金属状の原子で大部分が肺に沈着するということです。そのためRn222が寄与する被ばく線量を1としますと、娘核種の線量は約40倍も大きくなります。さらにラドンの濃度は、通常、屋内の方が屋外よりも数倍高くなります。私たちが1日の大部分(約80%)を自宅や会社の屋内で過ごすことを考えますと、世界の被ばく線量が高くなる原因は、「屋内のラドン濃度の高い地域が世界には多く存在する」からと推測されます。

ゲンくん もっと具体的に説明して。

カワさん ラドンの屋内濃度を高める主な要因には(1)土壌や岩石中におけるラジウム含有量の多さ、(2)建材の種類(木造住宅のラドン濃度は低め)と住居の高い機密性、(3)換気状態(窓の開閉が多いほど屋内のラドン濃度は低め)などがあります。これらの要因が重なって欧米では日本よりも屋内ラドン濃度の高い国がたくさんあります。例えばチェコ、フィンランド、スウェーデン、フランス、スペイン、オーストリアなどでは日本の5〜10倍も高いラドン濃度が報告されています(WHO屋内ラドンハンドブック2009年)。そのため欧州には、「自然放射線による年間の総被ばく線量」が日本よりもかなり高くなる国があります。中川東大准教授は、毎日新聞「中川のがんの時代を暮らす」という記事の中でフランス、スペインは約5mSv、そしてフィンランドは約7.5mSvと紹介しています(ちなみに日本は2.1mSvです)。ずいぶん線量の大きさに幅があると思いませんか。

ゲンくん 自然の放射線でもこのように数値が違うと健康に何か影響を及ぼすことはないの?

カワさん 欧州で「がんや白血病が日本より多い」と聞いたことがありません。人類には「自然環境がある程度変化しても体の状態や機能を一定に保ち(恒常性)、自然放射線程度の変動範囲であれば人は適応(順応)する能力を備えている」と説明する専門家もいます。詳しくは次の機会に紹介しましょう。

原産協会・人材育成部


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