【原子力ワンポイント】 広く利用されている放射線(13) 放射線で有害物質を無害化し環境保全原子力産業新聞では、2011年1月に、「身の周りにある放射線の基礎」について解説する「原子力ワンポイント」コーナーを設けました。その後、福島第一原発事故に対応して同年4月からは、「緊急時の放射線影響・管理」に論点をシフトして「日本の放射線・放射能基準〈番外編〉」をとりあげてきました。今、事故から約2年半が過ぎ、今年の8月8日には原発から20キロ圏内の警戒区域とその外側の計画的避難区域の再編が完了しました。完全な復興にはまだまだ多くの課題が残されていますが、生活再建を目指して将来設計の構築に向けた第一歩が踏み出されたと言えます。ここではもう一度、初心に帰り、「広く利用されている放射線」について解説したいと思います。 今回は、日本が中心となって進めてきた放射線(電子ビーム)を利用して燃焼排煙中の硫黄酸化物や窒素酸化物を除去する環境保全技術などについて紹介します。 ゆりちゃん 放射線で有害な物質を無害なものに変えることが出来るって聞いたけど、本当ですか? タクさん 火力発電所などで、石炭や石油を燃やしたときに出る煙には、窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)といった有害物質が含まれていて、大気中で太陽光の作用を受けて硫酸や硝酸に変化します。これらが、雨に含まれて地上に達したものが酸性雨であり、樹木の枯死などの被害をもたらします。わが国では1973年頃から注目され、諸外国に先駆けて、効果的な処理技術の開発が進められました。すなわち、この煙にアンモニアを加えた後に、図中の電子加速器から出てくる電子ビームを当てると、窒素酸化物や硫黄酸化物はそれぞれ硝酸(HNO3)、および硫酸(H2SO4)に変わります。そして予め添加されているアンモニアとの中和反応によって最終的には硝酸アンモニウム(硝安)、および硫酸アンモニウム(硫安)などの有用な肥料に変わります。つまり、有害物質から肥料を作ることができるのです。この技術は日本で開発され、その後ポーランドや中国の火力発電所でも有効に活用され、大気汚染の緩和にずいぶん役立てられたのですよ。 ゆりちゃん 下水処理にも「放射線は有効」って聞いたことがあるけど本当ですか? タクさん 本当です。放射線は、医療用具の滅菌などで広く知られているように殺菌効果があるので、下水汚泥に放射線を当てて、肥料や土壌改良剤にするリサイクル技術が、インドやアルゼンチンでは実用化しています。 ゆりちゃん 放射線はそのほかにも環境改善に役立つ可能性があるのですか? タクさん まだまだたくさんあります。その1つとして発ガン性のあるダイオキシンに電子ビームを当てて分解・減少化する技術開発がなされ、ごみや汚染土壌の焼却灰を土木原料などに再利用するための焼却施設などでの実用が期待されています。(原産協会・人材育成部) お問い合わせは、政策・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで |