【原子力ワンポイント】 広く利用されている放射線(16) 放射線の橋かけ反応利用し新素材開発

放射線は産業のイノベーションを手助けしてきており、測定・検査、製品の耐熱性や耐久性の向上、また、発泡プラスチックの製造など、多方面で利用されています。

ゆりちゃん 本紙で以前、放射線を稲や梨などに照射して品種改良することを知りました(2013年9月19日「広く利用されている放射線 (14)」参照)。放射線は新しい材料の開発にも利用できるのですか?

タクさん はい、利用されています。今年8月初旬、葛飾区で開かれた「第60回全国中学校理科研究会」で先生方に体験してもらいましたが、そこで用意したのはポリカプロラクトン(PCL)と呼ばれるプラスチック材料と、それに放射線を照射したものの二種類です。これらを60〜80度のお湯に浸して引っ張ると、放射線を当てた方だけが切れずに残り、さらにそれをもう一度、お湯に漬けると元の形に戻りました。放射線を当てることによって熱に強く、形状記憶合金のような性質を持つ、新しい素材が生まれたのです。

ゆりちゃん どうしてそのような不思議なことが起こるのですか?

タクさん ちょっと専門的になるのですが高分子という非常に長い分子でできているプラスチックやゴムなどに放射線を照射すると、隣り合う高分子の一部がつながって、ちょうど、橋がかかったような構造が作られます。これを「橋かけ(架橋)反応」と呼んでいます。この反応が起こると元の材料が、熱に強くなったり、硬くなったり、新しい性質が生まれるのです。

ゆりちゃん 橋かけ(架橋)反応を利用した製品にはどのようなものがあるのですか?

タクさん 代表的なものに自動車の「ラジアルタイヤ」があります。タイヤはゴムでできていますが、天然の生ゴムは弱く、そのままでは使用できません。そこで、生ゴムに放射線(電子線)を照射して橋かけ(架橋)反応を起こさせて、強度を高めているのです。その他、家庭用の風呂や自動車の内装品あるいはサーフボードなどに使われている発泡プラスチックにも、橋かけ(架橋)反応が利用されており、軽くて丈夫な製品ができあがりました。

ゆりちゃん すごいですね。放射線は他にも利用されているのですか?

タクさん 実は、工場で作られたいろいろな製品は、規定の厚さになっているかどうか厳重な検査を受け、これに合格したものが私たちの身の回りに届けられているのです。その中にはトイレットペーパーのような紙やフィルムのような薄いものも含まれています。また金属には、接続部を溶接してつなぎ合わせる場合がありますが、その部分に放射線を当てて、反対側のフィルムに溶接内部の状態を写すことにより、きちっと溶接されていることを確認しています。このように放射線は、製品を壊すことなくそのままの状態で検査(非破壊検査と言います)する大事な手段として利用されているのです。

原産協会・人材育成部


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