停止のリスクも視野に 原子力安全シンポ パネルの模様

原産協会は22日、原子力安全シンポジウムを開催した(本紙既報)。基調講演に続き行われたパネルディスカッションの要旨は以下の通り。コーディネーターは田中伸男氏(日本エネルギー経済研究所特別顧問)。

[各パネリストの紹介・発言ポイント] ポール・ディックマン氏(アルゴンヌ国立研究所)

米国エネルギー省の国家核安全保障局勤務を経て、原子力規制委員会(NRC)の元クライン委員長主席補佐官を務めた。NRCには、原子炉安全諮問委員会(ACRS)、原子力安全許認可会議(ASLB)、上訴裁判局(OCAA)があり、NRCの決定範囲を制限する独立機関となっていることなどを述べ、日本の規制体制における意思決定構造に対し助言した。

山本哲也氏(原子力規制庁)

規制委員会発足に伴い、原子力安全・保安院から、規制庁審議官に就任。原子力発電所に係る新規制基準の策定経緯、ポイントの他、公開審議やパブリックコメントを通じ、信頼確保に努めていることなどを述べた。

豊松秀己氏(電気事業連合会、後半は大沢高志氏が登壇)

関西電力副社長で、経済産業省の自主的安全性向上に関するワーキンググループや、原子力安全推進協会の活動にも積極的に参画している。04年の美浜3号機事故を教訓とした安全文化醸成活動、福島発電所事故を踏まえた規制の枠組みにとどまらない安全性向上の取組の他、早期再稼働に向け事業者として全力を尽くす考えを述べた。

クレイグ・ハンセン氏(バブコック&ウィルコックス社)

原子力産業に係る経営やサイト管理で豊富な経験を持ち、マンスフィールド財団のワーキンググループで、今後のエネルギー政策に向けた提言発出にも携わっている。日米の協力体制は、どのように原子力と核拡散防止を実現すべきかを表す格好のモデル、「原子力に関して日本は島国ではない」と述べた上、国際協力が、日本社会に信頼と信用をもたらすことなどを強調した。

山口彰氏(大阪大学)

原子力安全委員会の審査指針、7月より施行された新規制基準など、事故後2年以上に及ぶ規制基準の議論に関わった経験を踏まえ、安全目標・性能目標、リスク管理について説き、安全規制に対する内外の信頼回復への議論を引き出した。

渡部道雄氏(共同通信社)

現在、東京本社で編集委員・論説委員を務めている。福島県出身の同氏は、故郷の被災状況について述べ、「福島原発収束がなければ原発への信頼回復はない」ことを一貫して主張し、事故炉の処理工程の早期確立、汚染水の完全封鎖、除染促進を訴えたほか、規制委員会の独立性維持に疑問を投げかけるなどした。

[討論のポイント] ・事故処理、国際協力のあり方

田中氏が、原子力災害を経験したウクライナとの対話で、同国との協力協定が存在するにもかかわらず、福島への専門家派遣の要請がないなどと問われたとして、問題を投げかけた。これに対し、大沢氏が、事業者として、国、自治体など、「インターフェイスが多い」ことをネックとしてあげる一方、廃炉に関しては、「国際廃炉研究開発機構」を通じた取組が進みつつあることを述べた。また、山本氏は、政府側として、国費投入は税金による負担となることから、廃炉費用に関する国民的議論も必要となることを述べるなど、組織の形態だけにとどまらないことを指摘した。

・規制当局と事業者との対話など

ディックマン氏は、NRCにとって原子力発電運転協会(INPO)は必須のパートナーで、それぞれ押し上げ役、引き上げ役になっており、「基準をクリアすればよい」というのではなく、絶えず安全向上に努めている米国の状況を述べた。また、山口氏は、これまで日本では、メーカーが安全規制で前面に出てこなかったが、多くの技術、人材のリソースを擁していることから、今後は、しっかり関わってもらうことが重要と指摘した。

・原子力発電全停止のリスク

ディックマン氏、ハンセン氏はいずれも、米国から見て、汚染水問題などに傾注し、他が手薄になりつつある日本の原子力を巡る状況を危惧し、真に重要なことを見極め、迅速に判断を下す必要を指摘した。田中氏は、丁度40年前のオイルショックを振り返りながら、世界のエネルギー情勢からみて、現在、国内の全プラントが停止している状況が経済活動などに与えるリスクを説き、難しい判断でも敢行していく必要を訴えた。


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