放医研、緊急被ばく医療体制を強化 国際的な連携を視野に アジア地域人材育成等 リーダーシップを発揮

万一の備えとして、緊急被ばく医療の万全の態勢を放射線医学総合研究所(放医研)が中核になって整備、近年ではアジア地域中心に国際的な連携へとネットワークを広げつつある。国際保健機構(WHO)の協力センターにも最近指定され、加盟国の専門家との知見交換、研修プログラムの実施による加盟国の専門家の育成等の国際的に果たすべき放医研の役割は高まりつつある。(記事中の写真は放医研提供)

放医研では、JCO事故などの教訓を踏まえて国の防災計画(平成17年)に盛り込まれた原子力災害への災害応急体制の整備にあたり、医療活動の中核的な機関の役割を担うことになった。

以来、3次被ばく医療機関である、被ばく医療の中心的機関として、高度専門的な除染及び治療を実施するとともに、全国の被ばく医療機関群に対し必要な支援及び助言を行う態勢をハード・ソフトの両面で整備してきている。

万一の場合、REMAT(緊急被ばく医療派遣チーム)を設置し緊急被ばく事故発生時に備えている。患者の収容には緊急被ばく医療施設としてトリアージ室・汚染患者処置室・除染室などを備え、専用病床(4床)、一般の病床(96床)を備える。これに医師、看護師及び診療放射線技師並びに放射線防護・安全職員、関係研究部研究員等も動員して全所的に対応する態勢だ。

国内では、福島県をはじめ専門家同士の連携を構築し、安全網の強化をはかってきている。そして、ネットワークはアジア地域を中心として、国際的なネットワークへと展開し始めている。

万一の事態は国内に限らない。このため放医研では元来は海外の現場で初期医療を支援するため、緊急被ばく医療支援チームを組織し、平成21年1月から本格的な活動を開始している。被ばく医療の分野で支援が可能なチーム組織は世界的にも極めて珍しいが、アジアではもちろん初めて。このチーム結成によって、被ばく医療における放医研の人的・物的資源を積極的に活かした国際的な支援活動を可能としている。

被ばく医療の専門医師や被ばく線量評価の専門家などで組織され、携帯性に富んだ先進の放射線計測機器や汚染事故等に対応する特殊な医薬品などを装備し、また被ばくに関するデータ解析を衛星回線を使ってリアルタイムに行うシステムも新たに開発し、機動性を兼ね備えながら幅広い原子力災害に対応可能だ。

平成22年には海外での実践的な訓練を目的に、要員3名をウクライナのキエフ近郊地域で行われる第14回夏期訓練に派遣し、放射線・放射能の測定訓練(=写真右)を実施しチームとしてほぼ満足する結果を得るなど、万一の場合の出動に備え経験を積んでいる。

◇WHOの指定受けて

今年9月、放医研はWHOの協力センターとしての指定を受けた。

「緊急被ばく医療」、「診療用放射線による被ばく」、「ラドンによる被ばく」に関する5分野について、放射線医科学の専門機関として、その特殊かつ高度な施設、多様な人材を駆使し、情報の蓄積・発信、シンポジウムの開催などによる加盟国の専門家との知見交換、研修プログラムの実施による加盟国の専門家の育成等の国際的な役割を高めていく計画がされている。

◇アジア諸国との連携強化

アジアを中心とした連携への取組みはすでに実績を重ねており、今年8月には韓国の被ばく医療従事者24名に、放射線被ばく事故対応能力向上に資することを目的として、「NIRS韓国医療従事者向け緊急被ばく医療トレーニングコース2013」を開催した。カリキュラムは被ばく医療に関する基礎知識を有する医療従事者を対象に被ばく医療に関する知識を実践的、体系的に学べる構成とし、東京電力福島第一原子力発電所事故を含めた過去の事故について被ばく医療の視点から学ぶ講義も実施し、教訓を共有した。またIAEAの枠組みであるANSN(アジア原子力安全ネットワーク)の一環で10月1日から4日の日程で、アジア九か国の被ばく医療従事者と医療行政関係者17名を迎え入れ、被ばく医療に関するワークショップを開催。さらに12月にはIAEA主催のトレーニングコースも予定され、アジア地域の経験交流、人材育成に関する活動が増えている。

(右の写真は3月の医療関係者対象の研修会)

アジア地域の人材育成は、低頻度事象への対応という緊急被ばく医療の特徴があるだけに、有事の際に国境を越え有機的に機能する緊急被ばく医療の人的ネットワークの構築には、リーダーシップを発揮する中核となる存在が欠かせない。その意味で放医研には、腰を据えた長期的な取り組みが求められている。


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