[インタビュー] 後藤美香氏 電力中央研究所 上席研究員 米国の自由化も試行錯誤の段階 「柔軟性残した制度に」 国の状況、現実踏まえ 電力システム改革

電力の自由化、消費者からすればまずは料金の値下げに期待するところ大だが、自由化がそのまま料金値下げにつながるのか、実はよくわかっていない。そこで電力中央研究所・社会経済研究所で米国はじめ欧米の電力市場の調査研究をしている後藤美香氏に米国の電力市場の状況など、お話しをうかがった。

「米国はシェール革命の恩恵もあり、石炭資源も豊富、火力に対する環境規制が厳しくなっても、一定の電源として期待できます。電力市場を自由化して市場原理にまかせても国全体としてエネルギーバランスをとれるだけの土台があります。そこが日本の今の状況と決定的に異なるところです」。

日本はエネルギーの95%を海外に依存する状況で、原子力を再稼働できても80%以上を外国からの輸入に頼らねばならない。米国は自国資源(石炭、天然ガス等)に加え、原子力発電で20%分をまかなっている。

後藤氏は米国エネルギー省や州政府の担当官らにヒアリングするなど、米国の現地調査を重ねている。「両国の前提の違いは本当に大きいと思います。そもそも米国で日本の状況や課題を話しても、理解できないという反応にぶつかるくらいです」と話す。

エネルギーの状況も電力市場のあり様も違うため、まず日本の基本的な状況を説明しなくてはならない場面にしばしば遭遇するという。

米国では、例えば電力の小売りについては州単位で状況が異なり、自由化して市場原理にゆだねている州があれば、日本のように規制の下で電力小売りがなされている州もある。ただ現実問題として卸電力市場価格には上限が設けられているため、規制を完全に撤廃して市場原理にゆだねることはできていない。

「自由化すれば、需要がピークのときには価格が非常に高くなり得るけれど、現実には政治的な配慮から上限価格が設けられています。事業者はエネルギー市場で十分な費用回収ができないため、容量に対する市場を創設するなどの動きがみられています」。

現実には、価格上限の設定など政治的な介入で事実上の規制が設けられ、結果として新たな市場ができて「市場のゆがみが助長されている面がある」という。自由化の期待とは裏腹に、市場の複雑化や、期待通りの料金低下につながらない例も、電中研の調査から明らかになっている。資源価格の上昇もあって現実に米国の電力料金は総じて上昇している。自由化すれば料金値下げにつながるという期待は、現実問題としてそう単純に実現するものでないことは明らかだ。

自由化の恩恵とは何か、その意味を含め、米国でも試行錯誤が続いている実情がある。

「米国は資源もあり、エネルギーの状況は日本と比べようのないほど豊かです。一部市場原理に任せても全体として揺るがないだけの土台がある」という状況も理解しておかねばならないだろう。

シェール革命で今や資源大国になった米国、一方で資源の乏しい日本。

「置かれた状況の違いをきちんとみたうえで、何が日本のシステムにとって望ましいのかを、少し長い目でみていくことが必要です。海外で導入されている制度をそのまま輸入しても、米国と日本ではエネルギー資源に関する前提条件が明らかに違います。制度はその国の現実に即したものであるべきです」と後藤氏は強調する。

「何より大事なのは、いったん決めたら後戻りできないシステムはすごく危険だということです。風土や文化の問題もある。停電など電気の品質についても、日本では米国に比べ高い水準が期待される傾向があります。後戻りできないシステムにしてしまって後悔することのないよう、制度改革にも柔軟性を残すべきです。それはリスク管理に結びつくという意味での知恵だと思います」と提言する。

まさに、電力市場は日本の基幹システムであり、国情にあった最適な仕組みを作らねばならない。欧米の事情をよくみながら、慎重かつバランスのとれた議論の積み重ねが求められる。


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