新たな協力と競争へ向けて 東京工業大学 助教 西山 潤

2013年のノーベル物理学賞は「素粒子の質量の起源に関する機構の理論的発見」に対してフランソワ・アングレール氏とピーター・ヒッグス氏が受賞した。この受賞にはヒッグス粒子と示唆される素粒子が昨年2つの実験グループにより発見されたことが大きく寄与している。理論から約50年の間、様々な実験でその探索が進められてきたこの素粒子を発見できたことは大型加速器プロジェクトという国際協力と実験グループ間の競争の賜物だと思う。アイゼンハワー大統領の演説から60年の節目、私はこれからの原子力についても協力と競争が益々重要だと感じている。

私が原子力の道へ進むことを決めたのは大学入学の半年後に起きたJCO臨界事故がきっかけである。当時の私には原子力の抱える課題は明確で科学技術の発展によって解決できるように思えた。大学院では核変換技術のための核データに関する研究を行い、また博士研究員として中性子標準の研究に従事した。そして2011年4月から母校に助教として戻ることが決まった矢先、東日本大震災が起きた。福島第一原子力発電所事故には原子力に携わる1人の研究者として非力さと限界を痛感させられた。事故からすでに3年近く経過したが依然として事故対策が継続しており、住民帰還や廃炉には着実かつ長期的な対応が求められている。日本の原子力利用のあり方を再考し、様々な問題解決と原子力の将来の再構築に向けて専門分野を越えた連携が必要とされている。

私が会長を務める日本原子力学会の原子力青年ネットワーク連絡会(YGNJ)も、分野や組織を超えた「連携」を目的とした活動の1つである。YGNJは、2001年の発足以来、横断的な若手ネットワークの構築や若手の育成、知識の継承等に関わる様々な活動を行ってきた。福島第一原発事故後、原子力に対する国民からの信頼が失墜するなど、我が国の原子力を取り巻く社会環境が劇的に変化している中、活動を大幅に見直すこととなった。我々がまず取り組んだのは、同世代の若手と、我々が置かれている現状や課題を共有し、自らのあるべき姿と原子力の将来を議論するための「原子力若手討論会」である。第1回討論会は昨年6月に実施したが、参加者からは、「多様な意見を聞くことができ、自らの視野を広げる良い機会だった」「今こそ若手が、社会への働きかけを含めて、積極的に活動していくべき」など前向きな意見が多数寄せられた。討論会の目的は十分に達成でき、組織を超えた人脈作りや将来にむけた活力の高揚にも貢献できたと考えている。今年は第2回討論会の開催に加え、「より深い議論を行いたい」との要望を受けて人材育成に関する小討論会を立ち上げた。YGNJとしては、このような活動を継続し、多くの若手を巻き込むことで、業界全体に活力を与えるとともに、日本の原子力業界が直面している課題の解決へと繋げていきたいと考えている。

YGNJの「連携」は国内に止まらない。YGNJは、世界版YGNである原子力青年国際会議(IYNC)に加盟し、運営に参画すると共に、2年に一度開催される国際会議の準備に協力している(次回IYNC2014は来年7月にスペインで開催)。若手活動が盛んな欧州や北米では、在住のYGNJメンバーが各地域での活動に参加し、今年に入り立て続けにYGNが発足しているアジアでは11月の中国YGN設立に合わせて企画されたIYNC訪中団に代表を派遣するなど、ネットワークを構築している(他にインド・UAEでYGN発足)。YGNJとしては、世界各国の若手と密接にコミュニケーションを取ることで国際動向への感度を高めると共に、福島原発事故に関する情報発信を含めて、国際社会に対しても貢献したいと考えており、特にアジアを中心に、交流・連携の強化を図っていくつもりである。

日本がこの60年間に培ってきた技術や経験は非常に貴重なものだが、人材確保と技術継承を怠れば、国際的な競争力はすぐに低下するだろう。特に人材確保は他分野との競争でもあり、如何に原子力の将来像を示せるかが鍵となる。現状の原子力システムは安全対策や放射性廃棄物処分など様々な課題を包含しているが、私はこの発展途上の原子力システムをより優れたものに作りかえ、より信頼あるエネルギー源としていくことが原子力に携わる現世代の責務だと考えている。そのために、研究者として次世代炉の研究開発に携わるとともに、原子力を取り巻く諸問題の解決に向けてより多くの人と連携していきたいと思う。


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