【寄稿】 外務省総合外交政策局 軍縮不拡散・科学部長 北野 充 核セキュリティ・サミットへ向けて

2009年4月、オバマ米国大統領は、プラハにおいて「核のない世界」という演説を行い、4年以内に世界中で脆弱な管理下にある核物質のセキュリティを確保するため、新たな国際的取組を進めることを表明した。これを踏まえて核セキュリティ・サミットが立ち上がり、2010年のワシントンでの第1回サミットから4年を迎える来年3月24〜25日には、オランダのハーグで第3回となる核セキュリティ・サミットが開催予定である。

核セキュリティ・サミットのこれまでの成果を振り返ってみたい。2010年の第1回サミットでは、まずは初めて首脳レベルで問題意識が喚起されたことに意義がある。また、このサミットでは、核セキュリティに関する既存制度(IAEA等の取組)の強化を目指し、関係国の政治的意思を結集するため、成果文書となるコミュニケと具体的な作業計画を全会一致で採択した。我が国は、核セキュリティ強化のために核不拡散・核セキュリティ総合支援センターの設立を発表するなど、4つの協力措置を表明した。同センターはその年の12月に日本原子力研究開発機構に設立され、核不拡散・核セキュリティ強化に関するアジアの拠点として、これまで各国及び国内の人材育成や能力構築に貢献してきている。

2012年の第2回サミットはソウルで開催され、ワシントン・サミットの作業計画の実施状況を確認するとともに、福島第一原発事故を踏まえた核セキュリティ及び原子力安全分野の関連性について議論がなされた。我が国は、事故により得られた教訓を共有した。また、ソウル・サミットにおいては、高濃縮ウランの使用の最小化を目指す取組を加速させることが求められたとともに、様々な分野で実効的な取組を促進するため任意参加型の「バスケット提案方式」が採用された。我が国は、核物質及び放射性物質の輸送セキュリティに関するバスケット提案の主導国として、他の有志国(米・英・仏・韓)とともに具体的取組を進めることとなった。本年11月12〜14日にはこの5か国で輸送セキュリティの机上演習を実施し、今後優良事例や教訓等をとりまとめて来年3月のハーグ・サミットの際に提言を発出する予定である。

では、日本国内での核セキュリティ強化の取組についてはどのような進展があるだろうか。2012年3月までに、核物質防護措置強化のため、IAEAの核物質防護勧告文書第五版(INFCIRC/225/Rev5)及び福島第一原子力発電所事故の教訓を取入れた規則改正が実施された。また、原子力委員会原子力防護専門部会が核セキュリティ上の課題への対応の在り方をとりまとめた報告書「我が国の核セキュリティ対策の強化について」を作成している。

さらに、昨年9月に原子力規制委員会が発足し、同委員会が我が国の3S(=原子力安全、核セキュリティ、保障措置)の取組をとりまとめていく体制が整えられた。また、同委員会の下に設置された核セキュリティ検討会では、前記報告書も踏まえ、原子力関連施設で働く人々の個人の信頼性確認制度の在り方等の検討を進めている。

ここで、多様な関係者が重層的に核セキュリティ強化を推進する必要性を改めて指摘したい。関係省庁はもちろん、電力事業者や研究施設関係者、核物質・放射性物質を扱う企業関係者、地方自治体、一般市民を含めて、それぞれが核セキュリティ強化のためにできることを進めるなど、核セキュリティ文化の醸成に努めることが必要である。一部で進んでいる合同訓練の実施や優良取組事例の共有などが更に進展することを期待している。

我が国は、原子力発電の利用経験が長く、核燃料サイクルを推進しており、高い水準の技術や人材を有する。また、防護の対象となる使用済み燃料等の核物質や放射性物質も多く保持している。このため、我が国の取組に対する各国からの注目度も高く、原子力事故を経験した国として原子力安全と核セキュリティの相乗効果向上など果たすべき役割も大きい。引き続き核セキュリティを国政の重要課題と位置づけて、ハーグ・サミットでも積極的に貢献していくのが原子力大国としての我が国の責務と考えている。


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