【原子力ワンポイント】 広く利用されている放射線(20) 進化過程で構築された生体防御システム

ルイ・パストゥール医学研究センターの宇野賀津子先生は、「放射線と体内の水との反応によって生じる“活性酸素”が発がんを生じるリスクの主役です。でも生体には、このがん化を抑制する何重もの防御システムが備えられています」と説いています。

ゆりちゃん 「活性酸素が発がんリスクの主役」ってどういうことですか。

タクさん その理解には人類の長い進化の歴史をたどる必要があります(=図1)。まずは「アミノ酸」の生成です。これには諸説ありますが、「炭素・窒素・水素を主成分とする原始の大気と、高エネルギーの宇宙線が反応して創られた」という説が有力です。そして今から約35億年前、このアミノ酸を基にして、細胞分裂して子孫を残すことができる「生命」が誕生したのです。ここで注意すべきことは、当時、地球に酸素がほとんど無く、空からは多量の紫外線が降り注いでいたため、「生まれた生命は、酸素を利用する“好気性の生物”ではなく、増殖に酸素を必要としない“嫌気性の生物”であり、発生場所は、深い海の中だったということです。

ゆりちゃん それからどうなったのですか。

タクさん それから約10億年の年月が経った時、海中にシアノバクテリアと呼ばれる藍藻(らんそう)が発生しました。この藻は、海水中の炭酸ガスを取り入れて、逆に、酸素を放出する「光合成」を営む特別な生物でした。嫌気性生物にとって酸素は猛毒ですので、多くは死に、一部は酸素の少ない海底深くに逃れていきましたが、ほんの一握り、思いもよらぬ行動に出たものがいました。彼らは、「先ず仲間同士で融合し、生命にとって最も大事な“DNA”を膜で包み込んで保護された“真核生物”へと変化したのです。さらには仲間だけでなく、好気性生物をも自分の細胞内に取り込み、合体・共生したのです(詳細はNHK出版「生命:40億年はるかな旅1」参照)。これが、酸素と食事で摂取したブドウ糖を結び付け、エネルギーを生み出す細胞の中の大事な小器官「ミトコンドリア」の起源となったのです。一方、地上では、海中から移動してきた酸素の濃度が徐々に高まっていき、今から約5億年前にはかなり厚いオゾン層が形成されます。これにより、有害な紫外線が遮られ、生物が地上で生活できるようになりました。しかしここで大きな問題が生じます。それはミトコンドリアに関係した問題でした。ミトコンドリアが営む「酸素代謝」によって、動物が活動に必要なエネルギーを得る一方で、代謝に使われた酸素の一部が酸化力の強い活性酸素に変化し、「DNA」を傷つけ、発がんのリスクを高めるということです。酸素にはプラスとマイナスの両面があったのです。活性酸素は放射線によっても生じます。そして放射線の害の7割近くは、この活性酸素によることがわかっています。それ故に宇野先生は、「放射線リスクは活性酸素が大事」と説明されたと思います。でも生物は、酸素毒を体験した進化の過程で、活性酸素の悪い影響を抑制する「生体防御システム」を構築し、微量な放射線の悪い影響を防ぐ能力を得たのです。

原産協会・人材育成部


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