【2013年 回顧】福島復興を阻む汚染水問題 リスク管理が議論に

福島第一原子力発電所事故から2年半以上が経過し、間もなく3度目の年越しを迎えようとする現在も、14万人以上の方々が避難生活を余儀なくされる状況となっている。被災地域の復興を加速させ、避難されている方々の生活再建を支援するとともに、1日も早く安定した暮らしが実現できる環境をつくり出すため、あらゆる知見を結集することが重要だ。

昨年末に新政権が発足した。福島の復興・再生は引き続き、政府の最重要課題の1つだが、そのためには、増え続ける汚染水の問題を根本的に解決することが急務である。現状は、近隣諸国だけでなく、欧米でも極めて深刻な問題として報道されるなど、事故発生以来、内外から懸念が高まる一方、4号機の使用済み燃料プールからの燃料取り出しが、当初目標より1か月前倒しで11月に開始されるなど、進展もあった。これは、今後、長期にわたる事故炉廃止措置に向けた大きな一歩であり、また、国民の安心・安全、海外からの懸念解消にもつながる大事な作業といえよう。事業者はもとより、国が前面に出て、廃炉・汚染水対策に取り組んでいく必要があるが、国内外の叡智を結集し、山積する課題を克服すべく、8月に設立された「国際廃炉研究開発機構」がイニシアティブをとって、この困難かつチャレンジングなタスクを完遂せねばならない。

そして、今年は、前政権の掲げた「エネルギー・環境戦略」をゼロベースで見直すこととして、エネルギー政策が集中的に議論された年でもあった。経済産業省の総合資源エネルギー調査会で鋭意、議論が進められ、12月13日に新たなエネルギー基本計画の原案が出来上がった。今後、これをたたき台に、関係閣僚による幅広い視点に基づく検討、パブリックコメントなどを経て、年明け早々にも閣議決定される運びとなっている。

国内の原子力発電だが、唯一稼働していた関西電力大飯発電所で、3、4号機がいずれも9月に定期検査入りし、以降、全50基の原子力プラントが停止している。事故以来、厳しい場面はあったものの、大停電に至らずに夏を過ごすことができたのは、老朽施設も含めた火力発電がフル稼働しているからに他ならず、厳しい設備保全、運転監視が求められ、さらに継続運転している現状は、まさに「綱渡り状態」だ。新たなエネルギー基本計画の原案では、初めに、1973年の第1次石油ショック後のわが国のエネルギー消費抑制の努力について述べているが、石油ショックから、丁度40年が経過した現在、海外の資源に大きく依存することによるエネルギー供給体制の根本的な脆弱性を再認識し、優れた安定供給性と効率性を有し、運転時に温室効果ガスを排出しない原子力発電を、引き続き重要なベース電源として活用していく必要がある。

喫緊の課題となる再稼働に向けてはまず、7月より施行された原子力規制員会による新たな規制基準に対する適合確認作業が、適切かつ着実に進められねばならない。現時点、14基の原子力プラントについて、事業者からの申請を受け審査が行われているところだ。また一方で、敷地内破砕帯評価を実施中の発電所については、規制委員会による一定の見解取りまとめが審査開始の前提となっているところ、5月には、日本原子力発電敦賀発電所に関して、2号機原子炉建屋直下に「耐震設計上考慮する活断層」が存在するとの評価が示された。福島第一原子力発電所事故を受け、原子力の安全性については、広く国民、とりわけ立地自治体の関心は非常に高い。規制行政には、広く産業界や様々な学協会との意思疎通を通じ相互理解を深めるともに、国民への丁寧な説明に努め、信頼回復を図ることが求められよう。

振り返れば、今年は、「リスク」という言葉が多く交わされたように思う。汚染水問題は言うに及ばず、規制サイドでは、事故を踏まえた原子力災害対策指針の改定、安全目標に関する議論他、学協会においても、「リスク」をテーマに掲げるシンポジウムが多数開かれた。新規制基準の施行と時を同じくして7月には、事業者による自主的安全性向上に関するワーキンググループが資源エネルギー庁のもと始動し、質の高いリスクマネジメントの実現に向け、現在、議論が佳境に入っているところだ。

また、福島第一原子力発電所事故以前からあった「もんじゅ」トラブル、六ヶ所再処理工場の度重なる計画遅延、高レベル放射性廃棄物処分地選定の停滞などを再認識し、核燃料サイクル政策を着実に推進していく必要があるだろう。

一方、世界に目を向けると、原子力発電の導入を計画する国は増えている。5月に、日本は、トルコとアラブ首長国連邦との間で原子力協定を署名、国内企業を含むトルコのシノップ・プロジェクトについては、商業契約合意にまで至るなど、今年は、国際展開での進展がみられた。このことは、事故の経験と教訓を国際社会と共有することで、世界の原子力安全の向上や原子力平和利用、核不拡散や核セキュリティ分野でのわが国の貢献が期待されている表れといえよう。


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