【書評】 「原子力の本当の話」 藤家 洋一 著

わが国における原子力研究開発の先駆者であり、原子力委員長として政策立案とその実行を牽引してきた著者の、渾身の書である。副題に「利用より調和の原子力文明」とある。すなわち著者は、東京電力福島第一原子力発電所の事故が社会に与えた衝撃を踏まえて、原子力発電がすでに「原子力の平和利用」と「安全の確保」だけでは社会性をもち得ない段階にきており、このことは今後の原子力開発理念として、「利用より調和へ」という大きな変更を求めることになる、と基本理念を述べている。そのことから本書では、宇宙、太陽、地球といった大きな視点が全体に貫かれており、自然に学びそれと調和する原子力のあり方が述べられている。さらに、福島事故によって生じた「脱原発」「反原発」の風潮に対し、明治以来の近代化のなかで、わが国の存立の基盤としてのエネルギー、科学技術の重要性を丁寧に解説し、このことを国民と共有することが、現在最も求められることだとしている。

本書では原子力の黎明期から説きおこし、20世紀後半における原子力開発の成果を概説し、さらに長い将来にわたって、人類の持続的発展のために原子力が果たしうる役割を示し、選択と挑戦を求めている。また、広島、長崎への原爆投下の悲劇を克服しつつ、原子力の平和利用を着実に進めてきた政策と体制についても平明にまとめられている。

福島事故以来、原子力に関する様々な本が出版されているが、原子力利用を根本から考えるにあたって是非多くの方々に読んでいただきたい著書である。技術、政策に関する記述もきわめてわかりやすく、とりわけ若い世代に手にとって欲しい名著である。

産經新聞出版発行、46判並製277ページ、定価(1500円+税)。


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