奈良・正倉院所蔵の宝物 SPring−8活用し 古代ガラス工芸の謎を解く 非破壊分析の手法開発

奈良・正倉院に所蔵された宝物の数々。なかでも「白瑠璃碗(はくるりのわん)」に代表されるガラス器は、収蔵されてから今日に至るまで千年以上全く色あせることなく、当時のままの姿を残している。しかしその由来などに謎も数多く残されている。そこで岡山市立オリエント美術館はじめ高輝度光科学研究センター、東京理科大学が協力して、兵庫県にあるSPring−8を活用し、非破壊でガラス工芸品の分析を行う手法を開発した。

今回の手法の開発より、貴重な考古学資料や美術品を壊すことなく計測することが可能となり、今後の古代ガラスに関する文化的研究への応用が期待されるとしている。岡山市立オリエント美術館が資料を提供した。その主なものは、ササン朝時代(226〜651年)に製作されたガラス工芸品およびその破片だった。SPring−8を用いた分析の結果、型式学的特徴から初期ササンガラスに比定される突起装飾碗(3〜4世紀)にはレアアースなどの重元素が多く含まれ、後期ササンガラスに比定される円形切子碗(6〜7世紀)にはそうした重元素が少ないことが明らかとなった。こうした組成の違いは、利用した原料の違いを反映しており、同実験により、非破壊でササンガラスの製作年代を推定できる可能性が示された。

この研究は、最先端の放射光分析技術を、古来より伝わる正倉院宝物の理解、すなわち文化財の謎の解明へと適用したもの。放射光科学が広範な学術研究を支えていることを示すと同時に、その重要性・有用性を誰もが等身大で理解・実感できる成果でもある。今後はこれらの成果を学会等で発表してゆくとともに、今後この蛍光X線分析だけでなく、SPring−8で利用できる高分解能X線イメージング、高精度X線回折などの手法も用いて、所蔵する多くの美術品・考古学資料の分析を行い、それらの理解をさらに深めていくことにしている。


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