「日本の原子力維持、必要」 原子力と安全保障で国際シンポ

日本経済新聞社と日本経済研究センターが主催する国際シンポジウム「原子力と安全保障を考える」が20日に都内で開催され、日米の安全保障や核不拡散の観点から日本が原子力を継続していくことはますます重要になるとのコンセンサスが示された。

後半部分では特に、日本の将来におけるエネルギー政策の在り方について内外の有識者が技術的側面、福島からの教訓反映などを論点に討論。エネルギーの供給安全や温暖化防止、コスト的側面やベース電源の問題を考えても原子力は不可欠な中心的存在であり、発電シェアが何パーセントであっても安全文化を導入しつつ継続していく重要性が指摘されている。

米原子力規制委員会(NRC)元委員長のR.メザーブ氏(=写真)は後半の基調講演として「フクシマ以降の日本の原子力活用と世界の情勢」を披露。次のような見解を表明した。

申し上げたい重要ポイントは3つあり、1つ目は原子炉の再稼働問題だ。原子力がないなかで日本は化石燃料で電力供給しているが、その追加コストは年間350億ドルにのぼり、これらは税金となって日本経済に影響してくる。エネルギー集約型の輸出産業は競争力を失い、これもまた日本の経済力に大きく影響。また、経済を超えた影響としては、戦略的なリスクをはらむ中東への依存という安全保障の問題、そして温室効果ガスの排出量増加があるだろう。

2番目は確固たる安全性を持った形で原発を運転できることを明確に示さねば再稼働にはつなげられないという点。日本はまだ、福島事故からの教訓を完全に学びきっていないが、技術面での対応のほかに、設計基準を上回る想定外の事態に対応可能となるよう規制システムが拡大したこと、安全システムの目的そのものが見直されることになったのは大きい。すなわち、放射線により国民は健康上大きな影響を受けなかった一方、避難生活の長期化等、心理的・社会経済的な影響を受けることが明らかになっており、これらを考慮した活動が必要である。

揺るぎない安全文化の確立と言う点では、「システムは予想外に故障し、人はミスを犯す」ことを前提に、関係者すべてが個人的な責任感を持つことが重要。懸念が生じた時には通報することを義務化し、指摘した人を報復から守ることも大切だ。最も重要なのは、どこかで事故が起きれば他でも影響が出ることを念頭に、事業者がお互いに評価し合う原子力安全推進協会(JANSI)を自主的に設けたこと。日本で原子力産業界が今後も生き残れるか否かはJANSIが米国のINPOと同じように効果的に行動できるかにかかっている。

3番目は、原発が安全かつ適切に運転可能だと国民に納得してもらうことだが、これは規制者側の問題。独立性と権限、能力、責任を果たせるだけの人材と資金、そして「やる気」を持った規制者を確立できるかがそのカギとなる。そして、意思決定に際しては事業者や国民、反対派など関係者すべてから意見を聞いた上で最終判断を下し、それを妥当とする要因や背景もきちんと説明するなど、透明性が図られねばならないだろう。

パネル討論「東電処理、原発再開、そして日本のエネルギー政策を問う」

続いてメザーブ氏に4名の有識者を加えたパネル討論が行われ、日本の将来のエネルギー構成比率に関する見通しや核燃料サイクルの問題などについて議論が行われた。

地球環境産業技術研究機構の山地憲治理事は、原子力委員会が新たな原子力政策大綱について議論していた際、出した数値に言及した。2030年の原子力設備として5000万kWというシナリオがあり、年間8760時間のうち80%の7000時間フル稼働するとして発電シェアは35%が望ましいとした。当時は非常にバッシングを受けたが長期的にはあり得る数字だと指摘。福島後は新しい規制基準が出来たことなどもあり、設備容量を3000万kW前後とするとシェアは20〜25%くらいだが、新設原発についてはキチンと運転ができ、費用も回収可能という仕組みが必要になると説明した。

国際エネルギー機関(IEA)前事務局長の田中伸男氏は、地球温暖化に真面目に取り組んだ場合、2050年の原子力シェアは世界全体で25%になるとの議論を紹介。この中で日本がどのくらいやるのが適切かということだが、日本だけでエネルギー・セキュリティを考えるという単独主義は危険であると警告した。近隣のアジア地域と電力線をつないだり、ロシアからパイプラインでガスを購入するなど日本にとって合理的な判断をしてから、国内で何パーセント原子力をやるのか考えるべきだと指摘。25%を平均として、それ以上と以下の場合を考慮すべきだが、米国からLNGを買ってくるという議論についても非常に危険との認識を示した。

京都大学原子炉実験所の山名元教授は、まずベースロード電源として何をもってくるかという最も基本的な戦略について説明。最も避けたいのは天然ガスによるベース電源供給だとし、理由として長期的な市場や価格の不確定さ、国際的な戦略性、地政学などを挙げた。結果的に、原子力で総発電量の25%、石炭とLNGも各25%、水力と再生可能エネルギーが各10%などとしており、経年化した原発や福島関連の炉が閉鎖されれば35〜40GWというのを確固たる設備目標にすることができるとの考えを示した。

IEAのチーフ・エコノミストであるF.ビロル氏は、競争力という点で米国のシェールガスが入ってくるという思い込みはまず捨てるべきだと言明。米国でのガス価格は現在BTU当たり4.5ドルなのに対し、日本では14.5ドルであり、これに70ドルの輸送コストが加算される。IEAの考え方としては、既存炉を少しずつ再稼働して福島の第一と第二は閉鎖。建設中の大間と島根を除いて今後20年間に新設はしないが、2035年に原子力シェアを15%に持って行く。このようなシナリオなら一番バランスが取れ、日本の経済にも電気料金にも貿易収支にも、また、温暖化防止にも良いとの見解を表明した。


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