【原子力ワンポイント】 広く利用されている放射線(22) DNA損傷の主役は放射線よりも酸素

多くの人は「放射線はがんのもとになる悪玉」と思っていますが、生命維持に必要な酸素も遺伝子(DNA)を傷つけるという事実があります。日常生活で生じるDNA損傷の本当の主役は、「酸素と自然放射線」のどちらでしょうか。

ゆりちゃん 酸素と放射線が、遺伝子(DNA)を傷つける仕組みは同じなのですか。

タクさん 酸素が、エネルギーを生産する体内の工場(ミトコンドリア)で消費されると、反応性の高い物質(活性酸素)がつくられます。この活性酸素がDNAと反応してDNAに傷をつけるのです。一方、放射線の場合は、(1)DNAに衝突して直接的に傷をつける、(2)体内に存在する水と反応して活性酸素をつくり、間接的に傷をつける、という2通りの方法をとります。舘野之男博士は著書「放射線と健康」の中で、「放射線(X線やガンマ線)がDNAに衝突して直接的に傷をつける割合は、全体の5%くらい」と述べていますが、実は、放射線の場合も酸素と同様、DNAの大部分の傷は「活性酸素」によってつくられるのです。

ゆりちゃん それでは、どうして、放射線ばかり怖がられるのですか。

タクさん DNAは、ちょうど梯子(はしご)のように、「遺伝子の情報をになう物質(塩基)を真ん中にして2本の鎖で支える」構造をしています。DNAの傷は3種類に分けられます。それらは、(1)鎖が2本ともほぼ同じところで切れる場合(2本鎖切断)、(2)鎖が1本だけ切れる場合(1本鎖切断)、(3)塩基だけが傷つく場合(塩基損傷)――です。1本鎖切断と塩基損傷はほぼ100%修復されることがわかっています。これに較べて2本鎖切断は治しにくく、がん発症の主な原因と考えられています。酸素がつくる2本鎖切断の割合は「1000万個の傷のうち1個程度」なのに、放射線がつくる割合は「100個の傷のうち2個程度」と多いのです。このことから、従来、体内に取り込まれた酸素が作るDNAの傷は「修復可能」だが、放射線がつくる傷は「修復不能」という常識ができあがっていたのです。

ゆりちゃん 日常生活で酸素と自然放射線のどちらがDNA損傷の主役ですか。

タクさん 米国のマイロン・ポリコーブ博士は「がん発症までには生体防御の4つの砦(前回の原子力ワンポイント)」があることを考慮して、「呼吸する酸素と自然放射線が、1日当たり、1個の細胞当たり、何個の傷をDNAにつけるか」、理論的に計算しました。その結果を表1に示します。驚くことに、自然放射線がつくる2本鎖切断の数は、酸素がつくる傷の約1000分の1しかないのです。つまり日常生活で、修復不能なDNAの傷をつくっている主役は、放射線ではなく、「人が呼吸して体内に取り入れる酸素」だったのです。

(原産協会・人材育成部)


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