原子力界OB 安全向上で提言発表 産業界に司令塔的組織を

産業界が自主的に原子力の安全性を向上させていくための取組について検討する経済産業省のワーキンググループが、去る12月27日に、議論の中間まとめを行ったところ、原子力界のOBらで構成する組織が賛同者を募り、このほど「原子力の再出発へ向けて、原子力産業界組織改革」と題する提言を発表した。

本提言は、福島発電所事故により失われた原子力界に対する国民の信頼を回復するには、「産業界が自ら安全性を高めることが重要」との認識から、同ワーキンググループでの検討課題と問題意識について、「正に当を得たもの」と評価した上で、これまでの議論と今後の方向性に大きな関心を示し、4つの「改革」を提唱している。

冒頭、提言では、日本の原子力発電の歩みを振り返り、1960年代からの米国技術導入、国産化の過程で、政府、規制当局、電力会社、メーカーが一体となってトラブル対策と設備信頼性に努めた結果、設備利用率80%代後半を達成、90年代には計画外停止が世界一少なくなったものの、「十分な安全性を確保している」との過信につながり、謙虚に海外に学ぶ姿勢が失われたなどと、問題点を指摘している。

一方、米国では、1979年前後からの安全問題や、TMI事故の影響による過度の規制強化で、稼働率が低下したばかりでなく、事業者の安全意識が低下した時期もあったが、その実態を反省し、産業界が自主的に安全向上を目指すため、原子力エネルギー協会(NEI)と原子力発電運転者協会(INPO)の2つの組織を設立し、科学的合理的規制を基本に、規制当局と事業者の良好な信頼関係が構築され、稼働率は90%超に、国民の信頼も回復したと述べている。

これらを踏まえ、提言では、以下の4つの「改革」を掲げた。

改革その1 産業界は意思を統合し、政府当局および国民に対する顔となるべき司令塔的組織を設立すること――原子力産業協会の実績を踏まえ、米国NEI並みの指導的役割を果たす組織への発展、展開を期待。

改革その2 産業界は自ら原子力安全のさらなる向上を追求する仕組みと体制を強化すること――最近改組された原子力安全推進協会の米国INPO相当の発展的な業務展開を期待。

改革その3 産業界は必要な研究課題を推進するプロジェクトマネージメント組織を設立すること――現状の電力中央研究所組織の米国EPRI(電力研究所)並み発展的強化充実を期待。

改革その4 プラントメーカーは事業者と一体となって応分の役割と責任を果たすこと――現行の電気事業法、原子炉等規制法の制約があるも、プラントメーカーは自助努力として応分の役割と責任を自覚すべき。

提言は、原子力OBの有志らが活動する「エネルギー問題に発言する会」、日本原子力学会シニアネットワーク、エネルギー戦略研究会が中心となって取りまとめ、経産省ワーキングループでの議論に資するよう、12月に資源エネルギー庁長官に提出されている。

なお、「発言する会」、シニアネットワーク連絡会は、本提言と同時期、放射性廃棄物問題に関し、「法の枠組みを改訂し、国民・地域社会の信頼と参加のもとに最終処分事業を国の責任で一貫して実施する」ことを求める緊急提言も発表している。


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