厳しい今夏の電力「動かぬリスク」

田中 現在、原子力発電所が停止していることで、相当なコストがかかっており、電気料金も当然上がってくる。また、古い火力プラントを動かしており、もし事故が重なって起きると、停電してしまうという「原子力を動かさないリスク」もある。これをいかに説明するか。

八木 原子力発電所が動かないことによる影響としては、電力需給が不安定化すること、火力燃料費の高騰で電力会社自体の経営が厳しくなること、そして、最近あまりいわれなくなっているが、CO排出増による地球環境の悪化があげられる。こうした現状について、色々な機会を通じ説明するようにしている。

特に、需給面で、昨年は、関西電力の大飯3、4号機が動いていたが、今年は、おそらく原子力による電力供給がゼロの状態で夏を迎える可能性が高いと思っている。各電力会社が3%の予備力を保持できれば、数値目標を伴う節電を求めなくてもよいということに一応なってはいるが、3%の予備力というのは、瞬時の電力変動分を吸収するためのものであって、現実問題として「予備力ゼロ」といえる。

関西電力だけでなく、中西日本でみても、今夏は大変厳しい需給状況になると思っている。震災以降、火力発電所を、特例として、本来行うべき定期点検を軽微な保守にとどめて運転していることもあり、全国的に火力プラントの高稼働が続くことで、トラブルのリスクも高まってきている。結果として、原子力がゼロでも乗り切っている需給状況にはあるが、そのプロセスにおいて、非常に厳しい需給運用がなされている。また、火力の燃料費増は、電力各社の事業収支にも影響しており、経営効率化の努力は徹底的に行うつもりだが、この状態が続くと、会社によっては、電気料金の再値上げとなる可能性もあるだろう。そういう意味で、電力の安定供給を確保するため、安全の確認された原子力プラントを1日も早く再稼働していくことが重要だと考える。

畠澤 メーカーの立場からいえば、福島の原子力事故以降、3年間、定期検査の中で、原子力にしかない部分を担っていた人の仕事がほとんど途絶えている状況だ。エンジニアリングだけではなく、現場に従事する人材が損なわれるリスクを考えると、やはり、一定量のベースロード電源として原子力を位置付ける以上、何とかせねばならないと思う。

グリムストン 日本では事故後、原子力発電所がまったく動いていないにもかかわらず、大停電が起きていないことから、「原子力はいらないのでは」という人もいるかもしれない。原子力に対する怖れが高まっている現状で、「動かさないリスク」が伝わっていくには、なかなか時間がかかると思う。


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