現代都市への核攻撃影響評価 朝長氏らグループ

放射線医学が専門の朝長万左男氏(日本赤十字社長崎原爆病院長)らによる研究グループはこのほど、日本の広島・長崎への被爆経験を踏まえ、人口100万人の仮想現代都市に対する核攻撃を想定した人的被害、インフラ被害、経済破綻など、多方面に及ぶ影響に関する調査結果を発表した。

この調査は、被爆から約70年を経て、今なお様々な影響が残る被爆地の実相を、他分野から専門的に検討を行うとともに、当時と比して建築法やIT技術などの進歩した人口100万人の現代都市に対する核攻撃を想定し、医学面、社会インフラ面、経済面に与える影響を推定することにより、核兵器の非人道性に関する認識を訴えるのが目的だ。

物理学的・医学的影響では、広島型爆弾と同じ16KTの原爆攻撃を受けた場合と、1MTの水爆が爆発した場合とで、死傷者数、負傷者数、白血病・がんの過剰発生数を推計した。その結果、原爆では、爆心から半径4.5km圏内の昼間人口を48万人と仮定し、上空600mで爆発した場合、死者数6万6000人、負傷者数20万5000人と推定された。死者数が、広島原爆で人口37万人中14万人だったのに対して、少なくなった理由は、建築強度の進歩でビル内の死亡率が低いと見積もったためとしているが、即時被害に続いて、放射線障害などで生じる死亡者の推計は難しいとしている。また、水爆では、37万人死亡、46万人負傷となった。

社会インフラへの影響では、道路、港湾、航空、鉄道、公共賃貸住宅、下水道、廃棄物処理、水道、都市公園、文教施設、農林漁業、郵便、工業用水道、電力、通信の計15分野を対象に、原爆の規模と爆発形態を、20KT、100KT、1MTのそれぞれについて、空中または地表爆発させる6ケースで被害を想定しており、いずれも爆心地から半径1km以内は壊滅的となることが示された。

また、経済的影響では、人的損失・資本損失による生産力低下、ネットワークの遮断、金融市場の混乱について、評価を行っており、核兵器が使用された地域だけではなく、世界的規模で影響が及ぼされるほか、特に、現代社会にとって最も深刻な影響として、金融システムが危機にさらされることをあげている。そこでは、自然災害との比較で、東日本大震災に伴う経済的損失の項目中、除染費用についても触れており、福島第一原子力発電所事故では最大5兆1300億円に達するとしたほか、テロによる13KTの核兵器がニューヨークでさく裂した場合、1mSv以下にするのに6兆ドル、5mSv以下にするのに4兆ドルといった試算が紹介された。


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