〈Topic〉新しい言葉と社会 意図的な活用慎重に

 言葉というのは、広く捉えれば行為のひとつです。仲間内で共通のものを所有するということが仲間意識を確認する上では大事なことですから、言葉にもそういうことは起こります。ファッションやしぐさなどと同様に、言葉も共有されることによって仲間意識が生まれるし、それをまた良い意味で利用することもできるということはあると思います。

若者は新しいものを欲しがる、人のマネをしたがる。同じものを共有したいとか身につけたい心理から新しい言葉や流行といった社会現象を生み出してきたということだと思います。

鳥井 確かに、それはいつの時代にもあったのかもしれませんね。

一方でお役人の世界というのは確立された用語があります。立場のある人たちというのは、あまり新しい用語を使いたがらないということも・・。

 そうですね。ただ、変化の早い最近では、新しい言葉を戦略的に使うというようなことも発生する、これは大人の世界によく見られることです。

最近の例ですと「ベースロード電源」という言葉、これは専門用語ですよね。いきなり安倍総理が国民にむかっておっしゃった。説得する手段としてそういう専門用語を使ったのではないかと思います。これを聞いた一般のみなさんはいろいろな受け止め方をされたと思うのですが、専門用語のままで出てくると、やはりその意味がわかりませんので、そういう場合は、理解することを拒否するか、無理やり理解しようとしてその理解を誤るか、どちらかになる。「ベースロード電源」なども、本当はもう少しその意味が伝わる言葉にしたほうが良いのだと思います。

鳥井 意味が伝わるとまずいからでは?(笑)。

 そういう可能性もありますね(笑)。しかし、この場合、「ピーク電源」とか、いろいろな種類がある、その中の「ベースロード電源」と言うのであれば、例えば「安定供給電源」とか、「基本電源」とかと言ったほうがわかりやすい。大人たちがつくり出す新しい言葉もありますが、若い人の無邪気な新語とはかなり性質が違って、どうも大人の作るものは・・。

鳥井 裏がある(笑)。

 下心か、あるいは、まじめにやってもそういうことになってしまうのかもしれません。(笑)

ただ、余り戦略性が露骨だと、これが逆効果になるということもありますね。政治の言葉に多いですね。科学技術用語には余りそういうものは感じませんが。

鳥井 しかし、科学技術が政治的なイシュー(論点)になってきたら、そういうことが起こってくるかもしれませんね。

 私は、本当の科学者はそのような意図を持って用語を使うことはないものと思っています。それを政治的に問題にするときに、起こりやすいということだと思います。


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