【原子力ワンポイント】 広く利用されている放射線(35) 福島県内での甲状腺がん増加とは言えず

福島県「県民健康調査」検討委員会で福島県立医大が5月、甲状腺がんと診断が「確定」した子供(事故当時18歳以下)は前回(2月)の33人から17人増え50人に、「がんの疑い」は39人(前回は41人)になったと報告しました。放射線で甲状腺がんは増えているのでしょうか。

ゆりちゃん 甲状腺がんって何ですか?

タクさん そもそも甲状腺とは、首の前“喉仏(のどぼとけ)”の骨よりやや下の方にある20〜30グラムの小さな臓器です。この臓器にできる腫瘍が甲状腺がんです。ふくしま国際医療科学センターの放射線医学県民健康管理センターによれば、(1)外部被ばくの場合は全身線量「実効線量」で100ミリシーベルト(mSv)以上、(2)内部被ばくの場合には「組織等価線量」100mSv以上で、発がんリスクの増加が観察されています。潜伏期(被ばくから甲状腺がんが発症するまでの期間)は、前者が10〜15年以上、後者が4〜5年以上です。また、福島県の「県民健康調査」では「のう胞(体液の溜まった袋状にもの)」および「結節(しこり)」のサイズが、それぞれ20mmおよび5mmを超えた場合には、詳細な2次検査を受けることになっています。

ゆりちゃん 放射線によって福島県内では、甲状腺がんが増えているのですか?

タクさん 超音波検査の経過が報道されるたびに甲状腺がんが増えているかのような印象を受けます。しかし、1回目の県民調査が終了する本年3月末までは、同時に、検査対象者の数も増えていたのです。最近東京で、放射線と甲状腺がんに関する国際ワークショップ(21日〜23日)が開かれました。その会議には世界10か国から、医学者、疫学者、放射線リスク評価専門家など、世界トップクラスの専門家が集まり、「(1)子供の甲状腺被ばく線量は、チェルノブイリ事故の結果に比べて著しく低い、(2)内部被ばくによる甲状腺がんの潜伏期間は4〜5年と考えられる。医学的知見から、放射性ヨウ素(I‐131)が原因であるとは考えにくい、(3)甲状腺がんと診断された子供は、事故時点で幼児でなく10歳代の小児(チェルノブイリでは0〜5歳児の幼児)であった」と評価され、放射線による甲状腺がんの増加とは考えにくいと判断されました。

ゆりちゃん 福島と他県の甲状腺がん発症率を比較することはできないのですか?

タクさん 環境省では、福島県と同じ手法で長崎市と甲府市、青森県弘前市の3〜18歳の子供4365人の超音波検査を実施、その結果を昨年3月に発表しました(表1)。朝日新聞(2013年3月8日)は、「20ミリ以下の“のう胞”や5ミリ以下の“しこり”のあった子供が56.6%、それ以上の大きさの“のう胞”などがあった子は1%(福島は0.6%)いた。環境省の桐生放射線健康管理担当参事官は、福島の結果は他県とほぼ同様だったと考えている。また、長瀧長崎大学名誉教授は、超音波検査の性能が上がり、のう胞などが見つかりやすくなった。福島が異常な状態でないとわかった」と述べています。

原産協会・人材育成部


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