【原子力ワンポイント】 広く利用されている放射線(36) 飲酒に放射線防護効果認める実験結果も

1982年に東京大学出版会から発行された書籍「医師の証言/長崎原爆体験」にお酒を飲むことにより原爆被爆後の病体が良くなったという記載があります。「お酒が放射線から体を守るのかもしれない」というこの説は科学的に検証されているのでしょうか。

ゆりちゃん お酒って体によくないのですか。

タクさん どうしてそう思うのですか。

ゆりちゃん つい最近ある雑誌で、国立がん研究センターの「放射線と生活習慣のがんリスク比較表」を見たのですが、お酒も放射線と同じ、「がんの要因」と書かれており、少し怖くなったので、タクさんのお酒も減らさないといけないと思ったのです(表1参照)。

タクさん ちょっと待ってください。私は、身近なお酒と放射線の影響を比較してもらえば、「放射線は怖いと思っている人も少しは安心」するのでは、と思っていたのですが、逆になるなんて。実は、滝澤行雄名誉教授(秋田大学)が本年1月、「X線照射マウスに対する放射線防護効果」と題してお酒の利点を学術誌(RADIOISOTOPES,63,1−12,2014)に発表しました。そこではマウスに大量の放射線(7.8グレイ)を当てて30日後の生存率を調べる実験を行っています。その結果、お酒(純米酒)0.6mL(人に換算すると約4.5合)を事前にマウスに1回、飲ませておくと、約80%ものマウスが元気に活動する事実が観察され、お酒には放射線に対する防護効果のあることが確認されたと報告されました。

ゆりちゃん どうして放射線防護効果が生じるのですか。

タクさん 滝澤名誉教授は論文の中で、「日本酒の放射線に対する防護効果は、日本酒のアミノ酸とその誘導体(抗酸化物質の1つであるグルタチオンなど)が、放射線により生じたフリーラジカルを減弱させる。また、エタノールが水酸基(ヒドロキシ基)の除去作用を持っている。したがって、日本酒においては、アミノ酸による抗酸化機能ならびにエタノールの水酸基除去作用があいまって、その相乗作用による放射線防護作用が強く発揮される」と述べています。日本酒は、反応性の高い活性酸素を消去して細胞膜、あるいはDNAを損傷するリスクを下げるのです。

ゆりちゃん 日本酒以外でも放射線防護効果は生じるのですか。

タクさん 放射線医学総合研究所は、放医研ニュースNo.77(2003年)の中で「ビールには、放射線急性障害の低減に効果があるばかりでなく、重粒子線(炭素イオン線)に対しても効果がある。この発見は今後、重粒子線に対する副作用の少ない防護剤の開発に手がかりを与える」と述べています。このように飲酒には「放射線防護効果」があります。これからもっと研究が進み、表1の表現が見直され、飲酒によるリスクの低減効果が併記されるようになれば、ゆりちゃんの「お酒への不安」も軽減されるのではないでしょうか。

ゆりちゃん それよりも、放射線防護効果を理由に飲酒が増える方が問題だわ。

原産協会・人材育成部


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