【原子力ワンポイント】 広く利用されている放射線(38) 誤解の多い「除染目標年間1mSv」の概念法令では、国際放射線防護委員会(ICRP)1990年勧告に基づき公衆に対する実効線量限度を「1mSv/年」と定める一方、福島事故後、「サーベイメータが毎時0.23マイクロSvの数値を示したら“1mSv/年”被ばく」と耳にします。この2つは同じ意味なのでしょうか。 ゆりちゃん まず法令で定められている「実効線量限度」の意味を教えて下さい。 タクさん これは大事なことなので少し詳しく説明します。ICRPは1985年、パリ会合で、一般公衆の線量限度は“実効線量”で年間1mSvにする声明を発表しました。これが現在の“実効線量限度”です。実効線量は、図1に示すような人体模型(ファントム)を使い、体内臓器の位置に小型の線量計(100個程度)を埋め込み、臓器ごとの被ばく線量を測定・評価することによって初めて求められる量であり、場の線量を測定する線量計(サーベイメーター)で簡単に測定できる量ではありません。 ゆりちゃん それではサーベイメータで測定する「1mSv/年」って何ですか? タクさん “実効線量”の測定はとても難しいので、国際放射線単位測定委員会(ICRU)は、人体と同じ組成の直径30cmの球体を考案し、表面から1cmの深さの線量(1cm線量当量)で代用する方法を提案しました。この1cm線量当量は、“実効線量”よりも常に、大きくなるのが特徴です。サーベイメータは、この“1cm線量当量”を指示するように、校正されているのです。 ゆりちゃん もう少し詳しく“実効線量”と“1cm線量当量”の関係を教えて下さい。 タクさん それでは原発事故を例にして具体的に考えてみましょう。福島では、現在、放射性セシウム(Cs‐134とCs‐137)ガンマ線による外部被ばくが中心です。そのガンマ線のエネルギー範囲は0.6〜0.8MeV、四方八方から飛んできます。このような状況を専門家は、「等方照射される」と言います。ICRPは、1996年勧告(Pub.74)で、ガンマ線のエネルギーと照射条件をいろいろ変えて“1cm線量当量”と“実効線量”の関係を求めています。その結果を利用すれば、福島のような等方照射の条件下では、1cm線量当量で年間1mSvは、実効線量で0.58mSvとなり、同じ線量単位(Sv単位)でも両者の間に“1.7倍”の差の生じることがわかります。アイソトープニュース(2014年2月号)に、「除染基準0.23マイクロSv/hは本当に年間1mSvなのか?」、という記事が掲載されていました。「この1mSv/年を、法令で定める実効線量で表すとすれば、サーベイメータで管理すべき被ばく線量(追加線量)は、0.23マイクロSv/h(但し、福島の自然ガンマ線量を0.04マイクロSv/hと仮定し、これを含むとする)のほぼ1.7倍の約0.39マイクロSv/hになる」、と読み解くことができます。やはり除染目標“年間1mSv”という線量概念に混乱があったのです。放射線の単位についてはもっと正確に情報発信する必要があるのではないでしょうか。 (原産協会・人材育成部) お問い合わせは、政策・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで |