IYNC 2014 原子力業界が今最も必要なものは何か? 日本原子力研究開発機構 佐藤 真一郎 氏日本原子力学会の原子力青年ネットワーク連絡会(YGNJ)は、分野や組織を超えたネットワークの構築や若手の活性化を目的として、セミナーや勉強会、討論会の開催等を行っている。今回われわれは、7月6日から12日にかけて、スペイン・ブルゴスにて行われた国際原子力青年会議2014(IYNC2014)において福島特別セッションを開催し、日本の原子力分野の若手が東京電力福島第一原子力発電所(1F)のオンサイト及びオフサイトにおける現状と課題について報告した。その概要をここで紹介したい。 IYNC2014は、世界の原子力業界の若手(原則35歳以下)によって構成される国際NGO・IYNCが主催する国際会議であり、国際的な専門家ネットワークの提供、原子力技術の平和利用促進、知識の世代間継承を目的としている。プログラム編成や会場手配、参加募集、講演者招聘、資金調達など、運営の全てを若手が担うのが特徴である。8回目となる今回、世界34カ国から計382名の参加があり、11件の基調講演と174件の一般講演が行われた。日本からの参加者は17名であり、YGNJから6名が参加した。 福島特別セッションは、7月8日17時15分から約1時間半にわたって開かれた。はじめに、座長である堀尾健太氏(YGNJ)が開催主旨を説明し、山口晃典氏(東京電力)がオンサイトの廃炉進捗状況を報告した。各炉において継続的に冷温停止状態が確認されていることや、中長期ロードマップの内容、4号機からの使用済燃料の搬出状況、ロボット等を活用した原子炉建屋内の調査状況等を説明した。次に、眞田幸尚氏(原子力機構)がオフサイトでの放射線計測や除染の活動を報告した。1F事故以降自動又は手動で行われた様々な線量計測、線量率マップの作成、除染ツール及び除染実績について紹介した。 その後、開沼博氏(福島大)が福島県の社会的状況を報告した。「事故後、福島県民のうちどれくらいの割合が避難したか?」、「事故の影響を受けてどれくらいの県産米が100ベクレル/kgを超えたか?」といった問いに対し、多くの人が現実よりも危険を過大視している傾向を紹介した上で、その背景や要因を社会学的観点から分析した。最後に、全体で質疑応答を行った。 セッション終了後は、福島の現状をより詳しく知ってもらうために、福島県産の日本酒、桃ジャム、ドライフルーツ等を振舞うレセプションを開き、福島県観光交流課から頂いた資料を配布した。レセプションに先立って、菅原慎悦氏(電中研・YGNJ)が福島県産品の放射性物質汚染検査について紹介した。 福島特別セッションの質疑応答では、「事故後に得られたデータによりしきい値なし直線(LNT)仮説の検証を進めるべきではないか」との意見があり、眞田氏が「一定以上の被ばくをした方には継続してモニタリングがなされるシステムが構築されている。LNT仮説の検証は、1F事故後のサンプル数だけでは不十分であり、他のアプローチも必要」と回答した。その他、炉内温度の変動に関する質問(山口氏に対して)や、巷の報道内容だけでは決して得られない貴重な情報であったという賞賛(開沼氏に対して)など、参加者らとさまざまな意見交換を行った。 本セッションには123名の参加があり、プレナリーセッションに並ぶ大盛況であったこと、参加者から多くの反響を得たことから、われわれの目的は大いに達成することができたと考えている。本セッションを開催して強く感じたのは、依然として1F事故およびその後の福島や日本に関する情報の国外発信が不足しており、情報共有が強く求められていること、そして、それに対して強く応えていく義務がわれわれにはあるということである。 会議期間中、われわれは福島特別セッションのみならず、他国との関係強化のために、中国および韓国の参加者と個別に対談を行い、協力体制の構築を約束した。また、スウェーデンからの参加者とも交流し、彼らの訪日および1F見学に際してYGNJがサポートすることを約束した。こうしたネットワークの構築をもとに、今回のような活動を今後も積極的に行っていくつもりである。 ところで、外部から見て魅力のある業界とは、どのようなものだろうか。答えはさまざまあろうが、そのひとつは、若手の活動が活発であり、それが正当に評価されていることが外部から見えていることである、と私は考えている。若手の活力こそが、日本の原子力業界にとって今もっとも必要なものではないか。本セッションの開催については、大変多くの方からのご賛同を受け、金銭的な支援を頂いたおかげで成功させることができた。この場を借りて厚く感謝申し上げる。引き続き、関係諸氏のご理解とご支援を賜りたい。 お問い合わせは、政策・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで |