【原子力ワンポイント】 広く利用されている放射線(38) リスクの分母をそろえて正確な比較を

放射線の様々な「リスク情報」を利用する際には、「リスクがあるか・ないか」ではなく「どの程度のリスクなのか」、という視点で考えることが大事です。しかしこの時、「リスクの単位(分母)をそろえて比較」することを忘れると「リスクを過大に評価」する怖れがあります。

ゆりちゃん 「リスクの単位(分母)をそろえて比較」って何ですか。

タクさん 日本リスク研究学会は「市民のためのリスク・コミュニケーション・ガイド」で「同じひとりの被害者が出る場合でも、(1)被害者が1,000人のうちのひとりであるか、(2)10万人にひとりであるか、によってリスクの大きさは全然違う。被害者の数だけに注目するのではなく、その分母となっている人数にも目を向けて、同じ大きさに揃えて比較することで、直面している問題がどのくらい大きなリスクなのか把握できる」と説明しています。

ゆりちゃん 当然のことのように思えるのですが、もう少し具体的に教えて下さい。

タクさん 諸葛宗男東大特任教授は、科学技術振興機構のウェブサイト(サイエンスポータル)で、放射線被ばくのリスクが交通事故のリスクよりも約100倍も大きく勘違いされたケースを紹介し、なぜそのような勘違いが起こったのかわかりやすく説明しています。先ず諸葛教授が作成した表1を見て下さい。注目するのは“死亡率”と“生涯致死率”という言葉です。死亡率とは「一個人が1年間に死亡する確率」です。交通事故による年間死亡率がこれにあたります。また、生涯致死率とは「一個人が“特定の原因”で死亡する確率」です。放射線を受けたことによりその人が“がん”死亡する確率がこれにあたります。よくあるのは、交通事故のリスク「死亡率(約0.006%)」と放射線のリスクを「生涯致死率(0.5%)」を単純に比較し、100mSvの放射線被ばくのリスクは、交通事故死のリスクより約100倍(=0.5÷0.006)高いと勘違いして「だから100mSvの放射線被ばくはとても許容できない。少なくとも交通事故死のリスクと同程度でなければ許容できない」と思ってしまうのです。

ゆりちゃん 最初「分母に気をつけて」と言いましたよね?

タクさん そうです。警察庁が公表する交通事故による死亡事故統計では「10万人当たり何人死亡という死亡率」で表すとお話ししましたね。諸葛教授は、これを放射線リスクで使われる「生涯致死率」に換算して比較しなければならないと言っておられるのです。“死亡率”を“生涯致死率”に換算するためには、日本人について「何歳で何が原因で死亡するか」という情報がないと正確には評価できませんが、教授はこれを行い、表1の交通事故による生涯致死率の欄に示す通り「0.66%」という数値を与えました。もう既にわかったと思いますが、生涯致死率(分母が同じ)同士で比較すれば、約100倍も異なると思われた交通事故と放射線のリスクも「ほぼ同じ」になるのです。このように、リスク同士を比較するためには「分母をそろえて比較」することがとても大事なのです。

(原産協会・人材育成部)


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