【原子力ワンポイント】 広く利用されている放射線(39)絶対リスクに比べ大きく見える相対リスク「放射線被曝によりがんが増える」と言いますが、その大きさを「(1)がんで死亡する確率が何%上乗せされる(絶対リスク)、(2)何倍増える(相対リスク)」のどちらで説明するかによって、リスクに対する印象が大きく変わります。相対リスクで説明すると「リスクを必要以上に大きく印象づける」と言われています。 ゆりちゃん 「相対リスクの方が「リスクを大きく印象づける」ってどういうことですか。 タクさん マックス・プランク人間発達研究所“ゲルト・ギーゲレンツァ”適応行動・認知学センター所長は、著書「数字に弱いあなたの驚くほど危険な生活」の中で、コレステロール値が危険なほど高い1000人を対象にした「冠動脈疾患の新薬“プラバスタチン”の臨床試験結果」を例にして、“効能”を2通りの方法、すなわち(1)絶対リスクの減少率(治療なしで死んだ人の数から、治療を受けて死んだ人の数を“差し引いて”出す)、および(2)相対リスク減少率(絶対リスク減少率を、治療なしで死んだ人の数で“割って”出す)で評価してみました。その結果を表1に示します。同表から、“プラバスタチン”を投与された1000人の5年後の死亡者数は、投与しない場合の“41人”から“32人”に減少したことがわかります。これを絶対リスクでは、1000人あたり9人、すなわち「0.9%の減少」と評価します。一方、相対リスクでは、「22%(=絶対リスクの減少値“9人”/治療なしで死んだ人の数“41人”)減少した」と評価します。同じ内容であっても相対リスクのほうが、絶対リスクよりも効能が大きいと思いませんか。 ゆりちゃん それでは「放射線のがんリスク」はどのように定義されているのですか。 タクさん これについては田崎晴明学習院大学教授の著書「やっかいな放射線と向き合ってくらしていくための基礎知識」が参考になります。そこには、国際放射線防護委員会(ICRP)の被ばくによるがんリスクの「公式の考え」が記載されており、「全身線量(実効線量)で通算1シーベルト(Sv)の放射線をじわじわと被ばくすると、がんによる生涯死亡リスク(生涯の間にがんで死亡する確率)は、5%上乗せされる」と述べています。 ゆりちゃん 放射線のがんリスクにも「相対リスク」は使われているのですか。 タクさん それが大きな問題なのです。人の疫学研究の分野では“相対リスク”が多用されています。放射線影響研究所の「原爆被爆者の死亡率に関する研究、第14報、がんおよび非がん疾患の概要(2012)」には、「30歳で被ばくした人が70歳時にがんで死亡する相対リスクは、1Svあたり1.42倍、すなわち被ばくしない人よりも約42%増える」と記載されています。ICRPの公式の考えでは「実効線量で1Svあたり5%の増加」となっていますが、この報告書を見た人は、「今まで1Svで5%がん死亡率が増えると思っていたのにその8倍も高かったのか」と勘違いするかもわかりません。放射線のリスクコミュニケーションでは「絶対リスクと相対リスクの意味の混同」に注意する必要があります。 (原産協会・人材育成部) お問い合わせは、政策・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで |