海外で学ぶ経験活きる 過去WNU参加者の声 2015年度の募集開始

[日立GEニュークリア・エナジー 原子力計画部原子力プラント計画グループ 住川 隆]

私は2012年夏季に6週間、英国オックスフォード大学において開催された世界原子力大学夏季研修(以下、WNU‐SI)に原子力発電所設備の設計業務に従事するエンジニアとして参加した。

WNU‐SIでは午前中に原子力に関する講義があるが、午後は講義内容に関する討論を小グループに分かれて行う。この討論の場において前年に起きた福島事象に関する日本の原子力発電所の設計者としての見解を他国の原子力産業界の人々に伝え、また他者の見解を聞くことが私のWNU‐SIへの参加動機である。

討論の場において参加者の福島事象関連討論に対する関心の高さに驚いたが、それと同時に濃密な意思疎通を活発に行う彼らの姿に驚嘆した。彼らは知識背景に加えて思想・文化背景も異なる多国籍メンバーであるにも関わらず、テンポの良い会話を通して全メンバーの共通見解があっという間に構築されていくのである。

この経験は私が現在従事している海外向け原子力発電所設備の許認可業務に大きく生かされている。日本と海外では許認可プロセスやそれに伴う慣習や思想が異なる。このギャップを細部にわたるまで明確化し埋めていく作業は対面形式の活発な討論が必要であり、あのWNU‐SIの討論の経験がなければ現在の業務は困難なものになっていたであろう。

私の他にも弊社は6年間にわたり「向坊記念国際人育成事業」によるご支援を賜り、毎年WNU‐SIに参加している。OBは海外常駐勤務あるいは海外案件に従事しており、各人とも存分にWNU‐SIの経験を生かしている。

現在私は海外向け発電所に関する業務を行っているが、WNU‐SIにおける世界標準の討論の経験は国内業務においても活用できると私は考える。

今後、多くの皆様がWNU‐SIを通してグローバル・スタンダードを経験し、原子力産業界に役立てていくことを願う。


[関西電力 大飯発電所安全防災室 後藤 弘行]

WNU‐SIを通じて私が得た最も貴重なものは、世界各国の仲間との密な友人関係である。

WNU‐SIの仲間とは、フェイスブックやメールを通じたやりとりだけでなく、毎年の年賀状・クリスマスカードを交換し、彼らが仕事や観光で日本に来た際には家族同士で会い、交流を楽しんでいる。彼らは言葉通り正に私の友人であり、私は彼らの国での出来事を身近に感じるようになり、それが私の世界観へ少なからず影響を与えていることを実感している。家族同士での交流では、仕事だけでなく、生活や文化、スポーツなど、お互いに関心のある話題で盛り上がっている。(最近の主な話題は、日本の原子力再稼働の動向と育児である。)今後も人生の各ステージで幅広く交流し互いに刺激しあうこと、そして、その刺激が自分自身の価値観や将来ビジョンに影響を与えてくれることを楽しみにしている。

このような密な関係は、6週間に渡る合宿生活を通じ、学びと遊びの両面から密な経験を共有するWNU‐SIだからこそ得られたものである。学びの面では、レクチャーで示される世界的リーダーの将来ビジョンに共に共感または議論し、グループワークでは協力して課題に取り組む。遊びの面では、スポーツや娯楽、パーティの企画を楽しみ、夜を明かすまで語り合う。WNU‐SIの仲間と会うときはいつもオックスフォードでの生活を懐かしみ、思い出話に花が咲く。この経験の共有が、学生時代の友人のような関係の根幹であり、この友人関係はこれからも続いていくものと確信している。

WNU‐SIのフェローは、それぞれにこのような友人関係を築いており、それを通じて、互いの価値観や将来像へ影響しあうであろう。それは、世界の原子力業界へ変革を及ぼす可能性があるものと考える。これからも、WNU‐SIへ多くの若者が参加し、世界各国を結ぶ多くの友人関係が築かれることを期待する。


[日本原子力研究開発機構 高速炉研究開発部門核燃料サイクル工学研究所 川久保 陽子]

筆者が上司の薦めでWNUに参加したのは2011年夏、奇しくも福島第一原子力発電所事故発生後初めて開催された年であった。日本からの参加者として例年以上に注目を浴びるであろうことが容易に想像される一方で、普段職場では最若手の部類であり、議論をリードしたり大会場で自ら発言したりという経験はゼロに等しかったため、矢面に立つ自分を思い浮かべては渡航前から緊張していたのを良く覚えている。

実際に参加してみたところ日本に対する注目はほぼ想像どおりで、毎日朝から晩まで法制度、サプライチェーンの成り立ちから安全工学まで、幅広い講義が行われたが、すべての講義で何等かの形で福島第一事故に触れられていたように思う。これでは、どんなに緊張していようが、シャイであろうが、ただの「聴講者」ではいられない、何らかの形で「発信者」としての役割を果たさねば。そう決めてからの1か月半はとにかく必死であった。

人脈構築もWNUの主目的の1つであるため、毎晩の食事とその後の英国パブでの懇親会も皆勤賞並みに参加しつつ、他の日本人参加者とともに夜中まで翌日のトピックについて予習・議論をして講義に臨む毎日を過ごした。

結果的に、100人近くの関係者の前でかなりの頻度で発言・発表する機会を頂き、また自分の発言を契機として他国の参加者と新たな議論やプロジェクトに発展させる楽しみも味わった。この経験から、専門分野も国籍も多様なコミュニティにおいて議論をリードする度胸と戦略を随分と培ったと思う。実際、職場に戻ってから、主担当として米国や韓国の研究所と共同研究を実施することとなったのだが、気後れすることなく主体的に議論を進めていることに自分でも驚いた。

また、若くして研究プロジェクトの主任を務める人からウラン採掘所の現場で働く人まで、幅広い参加者と寝食を共にしたことにより、多くの刺激を受け、自分のキャリアを俯瞰的に考えるきっかけとなった。

寝不足もプレッシャーもたくさん経験したが、人生で1、2を争う濃密な時間を過ごした1か月半であった。


[日本エヌ・ユー・エス エネルギー技術ユニット コンサルタント 平杉 慎

2012年の夏季研修に参加した。当社は海外の原子力規制に係る政策的・技術的な情報を調査するコンサルティング会社である。主な参加動機は世界の原子力規制に係る動向を広く知ることができると考えたためである。

研修では各国参加者と忌憚なく情報交換ができる人脈が形成できたと考えている。つい先日もSNS等を通じて福島第一の放射線影響に関して意見を聞かれた。曰く、「福島第一周辺で植物の奇形が多発している」という海外報道があり、その信憑性に疑いがあるため日本の状況を直接聞きたいとのことであった。その当時、福島第一周辺での生物調査に携わっていたため、報道のような奇形の多発は見られなかった旨伝えた次第である。

いつでも気兼ねなく情報交換できる人脈が形成できたことは今後の人生において公的・私的に大きな財産になるものと考えている。

また、本研修でのリーダシップ教育は新鮮で日々の業務でも大いに役立っていると感じている。研修では多様な価値観を持つ全参加者からの意見をまとめるリーダ役を必ず担う。ここでは一部の者だけで議論を進めることなく、全参加者の積極的な参加を促し、多様な意見を取り入れていくことが求められる。

一般に日本人が持つリーダ像は押しの強い人間になりがちだが、世界が期待するリーダ像はこれと大きく異なっていた。すなわち、世界基準のリーダとは様々な関係者の意見を上手に取り込むことができる者であった。この点で言えば海外参加者の方がその気質がよく備わっており、特に日本の原子力規制関係者は大いに見習うべき部分と感じた。

今後の参加者も本研修を通じて広い人脈形成と世界基準のリーダシップを是非体験してほしいと願っている。


お問い合わせは、政策・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで