【原子力ワンポイント】 広く利用されている放射線(40)生活習慣の変化で放射線リスクも変わる

福島第一原発事故時、政府は「直ちに放射線の影響はない」と言い、専門家の大半も「安心してよい」と説明しましたが、逆に「いつかは“がん”になるのでは」と不安になった人もいました。丹羽京大名誉教授は、「生活習慣を変えることによって、放射線のリスクが変わる」と述べています。

ゆりちゃん 丹羽先生の話をもう少し詳しく教えてください。

タクさん この話は、中西準子著「原発事故と放射線リスク学(2014年3月発行)」の中で、対談という形で取り上げられています。体の中の正常細胞は、周囲の状況に応じて増えたり、増えることをやめたりしますが、がん細胞は、周囲の状況を無視して増え続けます。丹羽先生は「正常細胞の遺伝子上に「5個」程度の傷ができて初めてがん細胞になる」と説明しています。そしてここがとても大事な点ですが、「帰還基準線量(20ミリシーベルト/年)以下の低線量域では、放射線が与える突然変異は高々「1つ」である。がん細胞になるにはあと「4つ」の突然変異が必要だが、これらはその他の生活習慣に依存する要因(表1参照)によるものであり、低線量放射線だけで、がんを引き起こすことはない」と述べています。

ゆりちゃん 生活習慣を変えると、どうして、放射線のリスクが変わるのですか。

タクさん 生活習慣で放射線のリスクが変動するのは、上記の「放射線とその他の要因との組み合わせ」の考え方から、自然に導き出されます。放射線発がんでは、通常、10年以上の長い潜伏期が見られます。これは、放射線が正常細胞に1つの突然変異を与えたあと、さらに4つの突然変異が蓄積されるまでの期間と考えられます。そうなると、この長い潜伏期間で、他の要因による突然変異を受けないようにすれば、放射線によるがんの発症は抑えられることになります。被ばくの影響を心配する人は、その時点ではまだ、がんになっていません。これから何十年も生きていく過程で、残り「4つ」の突然変異を生じるかどうかということ、つまりこれから将来にかけての未知の部分があるということです。過去の被ばくによって少しがんになる進み具合(ペース)を早めた分だけ、これからの人生で他の要因の影響を減らすことができれば、単純な足し算と引き算により、被ばくの影響をなかったことにできるのです。

ゆりちゃん 医療の診断・検査で受けた放射線でも同じことが言えるのですか。

タクさん その通りです。医療の診断・検査を拒否する人は少ないでしょう。しかし、体のどこかの遺伝子に障害を受けたはずであり、いつかは“がん”になるかもしれないという不安を持つ人は多いと思います。生活習慣によって、放射線のリスクが変わるという知見が今後、広く受け入れられるようになれば、放射線を有効に利用する道を広げる一助となるでしょう。

原産協会・人材育成部


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