エネルギーミックスを考える 日本原子力産業協会 理事長 服部 拓也

国際エネルギー機関(IEA)は、世界エネルギー展望(WEO2014)において、発電部門から排出されるCOの削減が重要であるとし、課題はあるものの温暖化対策上の原子力発電の役割を評価した上で、2040年における世界の原子力発電の規模は現状より60%の増加、総発電量に占める割合を12%とし、日本での原子力発電の割合は21%と算定している。

このように海外での議論が先行して進み、外堀を埋められた形で国内の対応を決めていくという構図は、これまで地球温暖化対策をリードしてきた我が国の姿勢を問われかねないことから、1日も早く温暖化対策に関する我が国の考え方を提示することが求められている。

そもそも、我が国は省エネ、効率化の技術革新が進んでおり、1人当たりの排出量やGDPあたりの排出量も小さく、日本の総排出量が世界全体の4%弱と米国と中国を合わせた量の10分の1以下であることを考えると、省エネ技術や世界最高水準の熱効率を誇る我が国の石炭火力発電などの高い技術力により、世界の温室効果ガス排出量削減に貢献することを、我が国の温暖化対策の柱とすべきであろう。

その上で、原子力発電の比率について温暖化対策の観点から試算し、議論の叩き台として次の通り提示してみたい。

我が国の福島第一発電所事故前の発電比率は、原子力約30%、火力(ガス、石炭、石油)約60%、再エネ(含む水力)約10%であった。これはベストミックスを追求してきた結果であり、これを今後のエネルギーミックス検討の出発点とすると、発電の際にCOを排出しない、いわゆるゼロエミッション電源(再エネと原子力の合計)が約40%となる。

現状は全ての原子力発電所が停止しており、原子力0%、火力90%、再エネ10%という比率であるが、ゼロエミッション電源の比率を事故前のレベルである最低40%まで戻すことを現実的な目標として検討のベースに考えてみたい。なお、残る60%を占める火力の発電方式をより効率的なコンバインド・サイクル発電などに置き換えることと、燃料をCO排出量の小さい天然ガス燃料への転換を進める取組みも欠かせない。

再エネについては、エネルギー基本計画において2030年時点で20%以上の導入を目指すとされており、現状の10%(水力9%、その他1%)から20%とすることは、努力目標として適切と考える。原子力は、事故前の30%から依存度低減というエネルギー基本計画の方針を考慮して、残る20%をカバーすることにする。

どちらか一方ではなく、再エネの割合を増やすとともに原子力発電の再稼働を進め、火力発電の割合を相対的に小さくすることが重要である。しかし、経済性や系統接続の観点で課題が残る再エネの割合を増やしすぎることは、国民に過大な経済的負担を強いることにもなる。またCOP21での約束事項は国際的な公約でもあり、再エネは今後、更なる技術開発がなされていく電源ではあるものの導入量について過度の期待は禁物で、これらを踏まえ現実的な検討が必要である。

それ故、それぞれ不確定要素による変動幅をプラス・マイナス5%程度考慮し、15、20、25%となった場合のケーススタディーも行っておくことを推奨したい。

ちなみに、我が国の年間総発電電力量が1兆kWhで一定と仮定して、設備利用率を平均80%とすると、原子力発電が15%、20%、25%を担うために必要な設備量は、それぞれ約20GW、28GW、36GWと現状の44GWから低減されることになり、原子力依存度を低減していくという方向性とも一致する。

ここで示したものは、あくまで試算であり、これを達成したとしても、福島第一発電所事故前の水準に戻ったに過ぎず、ゼロエミッション電源の割合を40%以上にするためにはさらなる努力が必要であるが、いつまでも足踏みしているのでなく、いくつかのシナリオについて議論を開始していくことが重要である。

原子力発電について今後の廃炉計画、新増設計画等を時間軸で展開して、現実的な数字とあわせて、我が国としてのCO排出量削減計画の検討が進み、結果としてエネルギーミックスの議論が進展することを期待したい。

(本メッセージは、紙面の都合上一部割愛、全文は原産協会ホームページ〈http://www.jaif.or.jp/〉に掲載)


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