年頭にあたり 日本原子力産業協会理事長 服部 拓也新年明けましておめでとうございます。 昨年12月の総選挙で自民、公明両党が圧倒的多数の議席を獲得し、当面安定した政権運営を図る基盤が確立されました。わが国が将来に亘り持続的発展を遂げるために、内外の諸課題の解決に向けて政治の強いリーダーシップに期待したいと思います。 エネルギー問題は企業活動や国民生活に密接に関連するもので、アベノミクスの第三の矢である成長戦略を進めるためにも、直面する課題を早急に解決する必要があります。中でも原子力については、東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置の対応と福島の復興、川内原子力発電所1、2号機を皮切りとした再稼働問題、および年末にフランスで開催されるCOP21に向けたエネルギーミックスの議論など、今年も引き続き重要課題が山積しています。 年頭にあたり、今年の原産協会の取り組みについて、4点述べたいと思います。 第一は、福島支援活動です。 東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故発生から、4年が経過しようとしていますが、今なお多くの方々が避難生活を余儀なくされています。一方で、一部地域での避難指示解除や国道6号線の通行規制解除など復興の兆しが少しずつ見られるようになりました。事故で発生した除染廃棄物を保管する中間貯蔵施設の建設計画も着実に進んでおります。また、福島第一原子力発電所では、4号機の使用済み燃料プールからの燃料の移送が完了し、汚染水処理を含む廃止措置も着実に進められています。今後、避難されている方々が帰還し、復興を実感するには、国をはじめ関係者による継続した支援と世界の叡智を結集した福島第一の着実な廃止措置の取り組みが欠かせません。 当協会としては、広く社会に向けて福島の声を伝えることで福島第一の事故を忘れることなく、復興に向けた継続的な取り組みにつなげたいと考えます。また、放射線の理解活動など引き続き地域の方々に寄り添った活動を継続し、住民の方々の不安の軽減、そして帰還、生活再建・復興に貢献できるよう取り組んでまいります。 第二は、原子力発電に対する理解の促進です。 新しいエネルギー基本計画において、原子力は重要なベースロード電源と位置付けられました。一方、将来的に原子力への依存度は可能な限り低減させるという方向性が示され、その規模については安定供給、地球温暖化対策、ならびにコスト低減に加え、安全確保のために必要な技術と人材の確保の観点から慎重に見極めるとされています。また、新規制基準に適合すると認められた発電所は、地元の理解を得つつ再稼働を進めていくとされ、川内原子力発電所1、2号機の再稼働に向けた対応が大詰めを迎えています。 しかしながら、世論調査では未だに再稼働に対して厳しい見方が多くを占めているように、エネルギー政策上の原子力の必要性や価値が十分に理解されていない状況が続いています。年末のCOP21に向けて、政府の責任でエネルギーミックスの議論を早急に進め、原子力発電の利用を含めた将来の具体的なエネルギー確保策を、覚悟を持って国民に示す必要があります。また産業界も自ら原子力の必要性について説明していかねばなりません。 当協会としては、国民一人ひとりがエネルギー問題を自らの問題として考え、原子力発電の価値を正当に評価し、原子力発電を将来にわたって一定規模維持していくことの必要性を理解していただけるよう、特に女性層や次代を担う若年層への情報の浸透を図るよう工夫しながら、提言活動や情報の発信に努めてまいります。 第三に国際社会への貢献と国際展開への支援です。 福島第一原子力発電所事故後も、世界の多くの国々では、エネルギーの安定供給と地球温暖化対策、ならびに発電コストの安定と低減の観点から、原子力発電の導入や拡大に取り組んでおり、これらの国々からわが国の技術力に対する大きな期待が寄せられています。事故の当事国として、事故から得た教訓を世界と共有し、世界の原子力関連施設の安全性の向上に役立てることはわが国の責務であります。また、事故の教訓を反映した安全性の高いプラントを海外展開することは、これらの要請に応えるものであり、停滞する国内の原子力産業界を活性化し、原子力技術の維持・向上や国の成長戦略にも寄与するものです。 昨年、わが国は懸案であった原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)への加盟を決定しましたが、このことは原子力損害賠償に関する国際的な枠組みの構築に貢献するものであり、国内企業の海外展開とともに、海外企業の国内参入、すなわち原子力産業のグローバル化のための環境整備が欠かせません。 当協会では、国際的な人脈やネットワーク、交流の機会を通じて、今後決定されるベストミックスを基にした国内の原子力政策、事故を踏まえた産業界の取り組みなどを幅広く海外に情報発信することにより、国際社会に貢献するとともに、国内原子力産業界の国際的なプレゼンスを高め、国際展開を支援してまいります。 第四に人材の確保・育成です。 福島第一原子力発電所事故以降、原子力発電の将来の見通しが立たないことから、日本の原子力産業界は夢や展望のない業界と見なされ、人材の確保・育成が難しい状況が続いています。しかしながら、原子力が「重要なベースロード電源」と位置づけられたことから、当面一定規模の原子力発電所の安全・安定な運転を担う人材が欠かせません。このほか、六ヶ所サイクル施設の運転、福島第一原子力発電所の廃炉、通常の廃止措置、高レベル放射性廃棄物の処分などを的確に進めていく必要があり、そのための技術力と人材を確保していくことも重要です。このような状況をふまえ、いつ頃までに、どのような専門性を持った研究者や技術者がどこに必要なのか、それを確保するために必要な施策等を示す、技術・人材ロードマップの作成に向けた議論が国の場で進められています。また、プラント輸出など原子力産業の国際展開には、相手国の人材育成と同時に国内人材のグローバル化も図る必要があります。 当協会は、これまで取り組んできた原子力人材育成ネットワークのグローバル化を進めながら、わが国の人材育成システムを国際標準となりうるレベルにまで高めるとともに、技術・人材ロードマップ作成の議論を通し、人材確保・育成に向けた国の取り組みを最大限支援して参ります。併せて、これからの時代を担う学生層について、原子力産業をはじめとするエネルギー業界が将来にわたり幅広い研究開発が期待できる夢のある分野であることへの理解と関心を高めるよう努め、将来の日本のエネルギーを支える人材の確保・育成に向けた取り組みに尽力してまいります。 お問い合わせは、政策・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで |