【原子力ワンポイント】 広く利用されている放射線(43) 放射線受けた幹細胞排除される確率高い

前回の本紙「原子力ワンポイント(12月11日)」で予告しました通り、今回は、「胎児の放射線リスクが何故、従来考えられていたよりも小さくなるのか」、理由を説明します。

ゆりちゃん 胎児の放射線リスクが従来考えられていたよりも小さいとは、どういうことでしょうか。

タクさん まず胎児期の被ばくにより、非常に高い頻度で小児がんが誘発されるという結果が1950年代に始まったオックスフォード小児がん研究で示唆されました。一方、原爆の被爆を母親の胎内でうけた胎児被爆者では、「典型的な小児がんである“小児白血病”の発症が認められない」という不思議な現象が報告されていました。どちらが正しいのでしょうか。丹羽京大名誉教授は、中西準子著「原発事故と放射線リスク」の中で、幹細胞まで遡った新しい発がんメカニズムを考えれば、胎児被ばくの影響をうまく説明できるとして、後者に軍配を挙げました。「この内容を次回に紹介」と予告したのです。

ゆりちゃん では中身を紹介してください。

タクさん 白血病は血液のがん(主として白血球(リンパ球)の異常から発生)です。放射線影響研究所が広島・長崎で胎児被ばくした子供とそのお母さんの両方から血液中のリンパ球を採取して染色体異常の頻度を調べると、母親では異常が見つかるにもかかわらず、胎児には認められなかったのです。丹羽先生は、「新生児が生まれるまでに、染色体突然変異を生じた細胞が、何らかの機構で組織から排除されると考えれば、胎児被ばく者で白血病の増加がないことをうまく説明できる」と述べています。

ゆりちゃん 細胞が組織から排除されることは「幹細胞」と関係するのですか?

タクさん 幹細胞の住みかは「ニッチ」と呼ばれています。丹羽先生は、「受精から出産までの“胎生期”は、成人に比べて“幹細胞”の数が多いが、ニッチとわかるような構造は見当たらない。しかし、誕生が近くなると成人の組織にみられるニッチが形成され始める。ちなみに誕生後の組織では、ニッチの中に生着している幹細胞だけが長期間の増殖を続けるが、ニッチから出たものはやがて機能細胞(組織をつくる細胞)に分化し、最終的には組織から排除される。ともあれこの誕生前後に完成するニッチの数は限られているので、そこに生着できる幹細胞の数には限りがある。そのため新生児期では、数少ないニッチに生着するため、多くの幹細胞が競い合うことになる。マルシク博士等は2010年、放射線照射した骨髄幹細胞と非照射の幹細胞を移植してその優劣を調べ、前者の方が後者より“競合力”が劣ることを確かめた。このことを考慮すれば、放射線によって染色体異常を生じた骨髄幹細胞は、ニッチをめぐる競合で負け、排除される確率が高くなる」と考え、「胎児被ばくのリスクは、オックスフォード小児がん研究で示された結果より、原爆被爆者で明らかになった結果のほうが、信憑性が高い」と評価したのです。

原産協会・人材育成部


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