回転ガントリー導入間近 鎌田正・重粒子医科学センター長 治療負担ぐっと少なく

放医研は2001年より独立行政法人となり、5年ごとに中期計画を立てて内容を見直しながら各研究の継続を検討してきたが、全体的な予算が右肩下がりの中でコストのかかる重粒子線分野は伸び続けてきた。

当初、大きな予算を使って重粒子線照射装置を導入したことについて、厳しい目で見られた。しかし実績を積み重ねていくことでだんだんと認められ信頼を得ていく中で、患者も増えてきて治療の成果もあげている。

重粒子線がん治療は2003年、安全で有効な新治療法として国から先進医療(当時は高度先進医療)として承認されたが、治療費が約300万円と高額であることから患者が減ると思われた。しかし結局はその後も患者数が増えている。

患者の大半は主治医の紹介でセンターに来るが、最近は患者同士の口コミで来る人が増えてきており、重粒子線治療を受けた患者自身がまさに「生き証人」として勧めている。全ては治療の結果だ。昔は重粒子線治療が浸透しておらず、なかなかメディアにも取り上げられなかったが、だんだん施設も増えてきており注目度が高まってきた。

また、スキャニング技術が成熟し、ようやく1月から次の段階である臨床試験に入る。技術的には早い段階で実用化できそうだと思っていたが、基礎的な開発を慎重に進めて3〜4年かかった。呼吸で動いている標的に対してビームが均一になぞるのは難しいが、工夫を重ねてきた。

これまでは細いビームを広げてその一部のみを使用する方法で、ビームの大部分を切り捨てていた。ビームを切り取ったり無駄な部分の吸収体を置いたりするのは微量の放射線が出るため、わずかな量だが若い患者にとっては2次がんの可能性が上がるのではとの心配もあった。古い治療棟では、放射線防護のためとても重くて厚い鉄の扉がついている。吸収体やコリメーターと呼ばれる金属の絞りなど数万円のものを3方向からの照射用に6本作る。患者ごとに身体に合わせて作るために1週間かかり、合わない場合は作り直すためにさらに1週間かかった。

今後は細いビームのまま目的の場所に当てられるので、無駄なビームがなく利用効率が100%となる。全て患者の体内に照射されるため防護もしやすくなった。吸収体やコリメーターが不要になり、調整もすぐ対応できて次の日には照射できる「アダプティブな治療」が可能となっている。新治療棟ではガラス扉となっている。

この3月には超伝導回転ガントリーの本体が導入され、2016年には利用可能となる。同ガントリーは、円筒型の大型装置で、患者が体位を変えることなく360度方向からビームを照射できる。

患者が具合の悪い中で上を向いたり横を向いたりして身体の角度を変えながら4つの方向から照射していた従来に比べ、治療の所要時間は、肺がんの場合には従来の半分ほどの30分くらいとなる。患者にとって肉体的にも経済的にも負担が減り、治療時間が短くなれば、それだけ沢山の患者に照射できることにもつながる。

また次の世代の開発としては、さらに加速器からすべてを超伝導化し、10m×20mサイズの小型化(現在のHIMACは60m×120m)も可能となり、1つのガントリーで年間1000人くらい治療が見込める。

加速器は、基本的には電気しか流れていないため、現在20年経っているがきちんとメンテナンスさえしていればあと20年以上十分使える。さらに改良を繰り返してより長持ちするようになっている。

加速器の開発は、今を生きている人の寿命の年月内でも実用化が進んでいく技術。この分野では日本が先端を走っており、放医研としても一丸となって研究に取り組んでいきたい。


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