「中・長期的見通し、明るい」 IEAとNEAが「原子力ロードマップ」

国際エネルギー機関(IEA)と経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)は1月29日、世界の原子力発電開発の現状や2050年までの将来像、低炭素エネルギー・システムの中で原子力が果たす役割などの見通しについて共同作成した「技術ロードマップ=原子力エネルギー」の最新版を公表した。OECD諸国の中では最大の低炭素エネルギー源である原子力の将来性は中長期的に明るいとする一方、地球の温度上昇を2度以下に抑えるシナリオ達成のために、原子力設備を2050年までに現状の2倍以上に拡大する必要があると訴えている。

同ロードマップの中でIEAらは、2010年に前回版を発表して以降、世界ではエネルギー部門や原子力の将来見通しに大きな影響を及ぼすさまざまな出来事があったとし、福島第一原発事故や世界的な財政危機などを挙げた。その上で、このような課題の出現にも拘わらず原子力はベースロード用の確証済み低炭素電源技術として留まり、多くの国がエネルギー戦略上の重要性を再確認しているとした。

こうした背景から、ロードマップの最新版編集にあたりIEAらは原子力の開発利用が直面する近年の課題を考慮。具体的な目的として、(1)原子力開発の現状に加え、安全要件の増加や経済性の改善に取り組む追加の研究開発の必要性を概説(2)ロードマップ・ビジョンの達成に必要な原子力開発を加速する際の障害と行動を特定――を含めた4点を明記した。

2015年版の原子力ロードマップでIEAらが示した主な分析結果は以下の通りである。

原子力はOECD諸国の中では最大、世界でも第2位という規模の低炭素電源。エネルギー供給保証を改善しつつ燃料の多様化を支援、多量の電力を安定した発電コストで提供するとともに、発電部門の温室効果ガス削減で重要な役割を果たすことが可能だ。

「2度Cシナリオ」の目標達成に際しては、世界の原子力設備を現在の3億9600万kWから2050年までに2倍以上の9億3000万kWに拡大する必要があり、その時点で原子力発電シェアは17%になる見込み。原子力の将来見通しを短期的に見ると、多くの国が福島第一原発事故の影響を受けており、安全性に対する懸念から国民の信頼が低下し、いくつかの国ではエネルギー政策が変更された。

しかし、中長期的には原子力の見通しは明るく、2014年初頭に建設中だった72基という基数は過去25年間で最高の数値。もちろん、安全性の確保は原子力部門の最優先事項であり、規制当局はすべての原発操業で最高レベルの安全性の保証に大きな役割を担う。また、安全文化の促進はサプライ・チェーンを含めた原子力部門の全構成員に不可欠であり、新規導入国ではとりわけ重要となる。

各国政府にも資本集約型プロジェクトの進展を可能にする安定かつ長期的な投資インフラの保証という役割があり、安全性の向上や先進的な燃料サイクル、廃棄物管理、革新的設計などに関する研究開発を支援し続けるべきだ。

原子力は成熟した低炭素技術であり、スケールメリットの恩恵を受けるための出力増強や安全レベルの向上という軌跡を辿ってきた。その帰結として第3世代炉設計はコスト面で割高になったが、小型モジュール炉(SMR)であれば大型炉の適さない隔離地や送電グリッドの容量が小さい市場への電力供給など、原子力市場を拡大することが可能。モジュール方式という特徴もまた、資金調達という課題解決の一助となるかもしれない。


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