放射線医が語る 福島で起こっている本当のこと 中川 恵一 著

福島第一原子力発電所事故から既に3年以上が経過した今なお、10万人を超す福島県民が避難生活を余儀なくされている。「『放射線』によるがんは増えないが、それを避けるための『避難』による健康状態の悪化は、10年後、20年後にがんをもたらしかねない」として、新たなリスクを生むかもしれぬ行き過ぎの「ゼロリスク幻想」に筆者は警鐘を鳴らす。

12年9月、筆者は、飯舘村の中学校で、放射線とがんに関する出前授業を行い、その中で、生徒にアンケートを実施し、放射線の印象について尋ねたところ、なんと女子生徒の56%が「将来生まれてくる子供に影響がある」と回答したという。「チェルノブイリ事故後の最大の人命損失は、実は堕胎によるものだったことを思い出させる」として、若い世代に正しい知識を伝達する必要を筆者は訴えている。

「がんのウソ・ホント」の章では、狭い屋内に閉じこもりがちな「生活不活発病」、つまり、運動不足による肥満が原因の糖尿病ががん全体を2割増やすことなどを述べ、「がんを増やさないために避難しているのに、結果的にがんが増えてしまう」ことを筆者は危惧する。また、筆者の小学校時代の先輩で、食道がんにより57歳の若さで惜しまれ亡くなった歌舞伎役者の中村勘三郎さんが、生前、ロングラン公演の打ち上げで、巨大なケーキにダイブするドンチャン騒ぎをした翌日にがんが見つかったという話に触れ、がんは痛い病気と思われがちだが、症状が出にくい病気であることなども述べている。

巻末には、筆者と福島在住の作家・玄侑宗久氏との対談もあり、「豊かさ、健康長寿とは何か」についても考えさせる1冊だ。

KKベストセラーズ・ベスト新書、214頁、864円(税込)。


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